後期高齢者医療制度−−医師のサボタージュが続発、神通力失った診療報酬誘導
大山医師が「算定しない」とする理由の一つは診療報酬の低さだ。
同報酬の中には、血液や尿などのさまざまな検査やX線などの画像診断、傷の手当てなどの処置が含まれる。コストが報酬の範囲内に収まれば問題はないが、「患者さんによっては必要な検査や画像診断ができなくなるおそれがある」と大山院長は指摘する。
熊本市内で胃腸科の診療所を営む医師は、「この診療報酬を算定してしまうと、ほかのクリニックを受診するときに検査などで制約が生じかねない」と語る。というのも、同診療報酬では「主病」を一つに限定したうえで、その診療を行う一つの医療機関だけしか算定できないためだ。
同じ主病で別の診療所が同診療料を請求したりすると、後期高齢者医療制度を運営する都道府県広域連合からチェックが入り、請求が認められない可能性もある。
高齢者の場合、たくさんの医療機関にかかる場合が多いため、担当医には交通整理役が求められる。そしてそのための報酬である以上、「複数の医療機関での重複算定は認めない」(森光敬子・保険局医療課課長補佐)というのが厚労省の姿勢だ。
かかりつけ医のための診療報酬誘導にそっぽ
一方、この診療報酬を積極的に活用している医師もいる。東京都目黒区で開業する清水惠一郎・阿部医院院長(日本臨床内科医会常任理事)がその一人だ。
阿部医院では通院する後期高齢者約230人のうち、約190人から、従来の出来高払いから同診療報酬に切り替える了承をもらい、診療に当たっている。
初診や、来院して3カ月以内の患者は状態をよく見極める必要があるため、従来どおりの出来高払いで対応する。その一方で、それ以上の通院歴がある患者に関しては、病状の変化が激しい人を除き、多くの人に包括払いの後期高齢者診療料に切り替えてもらった。