旭化成の伝統化繊、インド女性の心をつかむ 生産開始から約90年、国内工場がフル操業

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インドへの原糸輸出を始めたのは今から約40年も前のこと。ベンベルグは生地に織るのが難しいため、旭化成の社員が現地に出向き、販売先の機屋(はたや:反物を織る繊維業者)に技術指導するなど地道な普及活動を重ねた。

ベンベルグはパンジャビスーツのストール、「デュパタ」の素材にも使われている(写真:旭化成)

それでもインドへの輸出は長らく微々たる量だったが、2000年代に入ると状況が一変する。経済成長で世帯収入が拡大し、消費を牽引する「中間(所得)層」が急激に増え始めたからだ。購買力を手に入れた中間層の女性たちがベンベルグ製のサリーやデュパタを買ってくれるようになり、当初は10社程度だった取引先の機屋も約70社にまで増えた。

こうしたインドの民族衣装とユニクロの機能性肌着の需要に対応すべく、旭化成は2014年に30億円を投じて、世界唯一の生産拠点である延岡工場を増設。ベンベルグでは1974年以来となる大型投資で、生産能力を年間1万7000トンへと1割引き上げた。それでも足元の需要が旺盛で、「増設した設備もすでにフル操業状態」(旭化成)だ。

素材の魅力をアピールし、価値高める

衣料用の化学繊維で代表的な3大合繊(ポリエステル、ナイロン、アクリル繊維)は、今や中国勢が世界供給量の大半を担う。日本の化学繊維会社はコスト面で太刀打ちできず、こうした汎用合繊から次々撤退。旭化成も2000年代にアクリル繊維とポリエステルの生産をやめており、ベンベルグは同社の衣料用繊維事業を支える貴重な存在でもある。

そのベンベルグの好調を牽引するインドでは現在、ブランド価値を高めるための施策に取り組んでいる。「工場がフル操業で供給量に制約があるので、今は目先の量を追い求めるのではなく、素材としての魅力、価値をより多くの人に理解してもらうことに重点を置いている」と谷本・第2営業部長は話す。

そのための具体的な施策として、昨年からインドの高級ファッション雑誌「FEMINA(フェミナ)」で広告を開始。また、ファッション展示会にも出展して優れた素材の特性を業界関係者らにアピールするなど、現地でのプロモーション活動を積極化している。

インドの女性たちのハートをつかみ、好調が続く旭化成の“オンリーワン繊維”、ベンベルグ。ファッションの世界は変化が激しいため、当面は現在の生産能力で対応する考えだが、認知度が増してインドでの需要がさらに拡大すれば、再度の工場増設も必要になりそうだ。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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