旭化成の伝統化繊、インド女性の心をつかむ

生産開始から約90年、国内工場がフル操業

ベンベルグは、天然素材を化学処理して作った再生繊維の一種である。原料は、綿花の種子のまわりに生えた細い“うぶ毛”。長さが数ミリと短く、綿花のように紡いで糸にはできないため、酸化銅アンモニアで溶かして糸に加工する。独ベンベルグ社が120年前に製造方法を開発し、旭化成はその技術を導入して1931年に延岡で生産を開始した。

ベンベルグの原料は、綿花の種に生えた産毛のコットンリンター。天然素材を化学処理で糸に加工する(写真:旭化成)

実は現在、このベンベルグを製造するのは世界で旭化成1社のみだ。糸にしてから銅やアンモニアを取り除くなど製造に手間がかかる割に、主な用途が裏地に限られたため、最盛期でもメーカーは世界で10社に満たなかった。

しかも、ポリエステルを始めとする安価な石油由来の合成繊維(合繊)に市場を侵食されてしまい、同業他社の大半は1980年代までに次々撤退。海外勢で唯一残っていたイタリアの小さな繊維会社も2009年に生産をやめた。

そうした中で、旭化成は工場の自動化など生産革新によって生き残り、高級上着の裏地を中心に残存者利益を享受。しかし、その旭化成のベンベルグ工場も1990年代後半から生産量が大きく落ち込み、一時は事業存続の危機に立たされた。カジュアル化の流れで、高級な背広やジャケットでも裏地自体が省かれることが多くなったからだ。

「サリー」や「デュパタ」で人気

その窮地を救ってくれたのが、インドの代表的な女性民族衣装である「サリー」や「デュパタ」の用途だった。主に既婚の女性が着用するサリーは長さが5メートルもある布で、専用のブラウスとロングスカートの上から体に巻き付ける。一方、デュパタは、長さ2メートルほどの大判ストール。こちらは若い女性が好むパンツスタイルのパンジャビスーツに欠かせないアイテムだ。

ベンベルグ事業部でインド営業を担当する谷本英人・第2営業部長によると、ベンベルグはこうしたサリーやデュパタの素材に適しているという。「シルクのように肌触りが優しく、光沢感も上品。染色が容易で発色がよいので、鮮明な色を好む現地の女性たちの嗜好にもあっている」。

汗をかいてもサラサラとしてべたつきにくいベンベルグの特性は、高温多湿のインドにうってつけ。また、適度な重さがあるため、身に付けた時にきれいなドレープ(たるみ)が自然にでき、シルエットが優雅に見える点も人気の理由だ。

現地ではサリー、デュパタとも、シルクや合繊、レーヨン、綿など多様な素材の製品が流通している。ただ、最上級品のシルク製は値段が高く、かといって安価な合繊や綿製は風合いや高級感が今ひとつ。そこで、化学繊維の中で質感がもっともシルクに近く、価格はその半分以下で買えるベンベルグ製を選ぶ女性が多いのだという。

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