人気お好み焼き屋「受刑者就労支援」への情熱 大阪の「千房」から社会貢献の輪が広がった

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中井社長の取り組みで特筆すべきが、再犯防止で始めた受刑者のための就労支援活動です。ただ、接客業が基本のビジネスでは、いろいろなご苦労もあったと言います。

「千房を創業して43年ですが、創業当時人手が足りず、つらい思いをしました。学歴、成績を問わず、応募者全員合格、即採用という時代もありました。その中に、非行少年・少女、元受刑者も入っていましたが、やがて彼らは立派な店長、幹部に成長していきました。それを知った法務省から、受刑者の就労支援に協力していただけないか、と打診があったのです」

「損か得か」ではなく「善か悪か」

千房の中井政嗣社長(筆者撮影)

ただ社内では、飲食業は人気商売、お客さんが怖がって店に来なくなるのでは、と反対も多かったと言います。中井社長は、受刑者のことを知ろうと、山口県の「美祢社会復帰促進センター」を訪れます。そこで、受刑者1人当たりの経費が年間250万~300万円かかり、出所しても5年以内に半分近くが刑務所に戻って来ると教えられます(2009年当時)。そして再犯者の半分以上が無職で、職場提供がいかに重要か、ということを痛感しました。

会社に戻った中井社長は、「就労支援は、損か得かではなく、善か悪かと言えば、善に違いない。会社はいろいろな人に支えられてここまで来た。経営も人の教育もマラソンではなく駅伝。自分がしてもらったことを次にバトンタッチしたいと思わないか」と説得。最終的には「自分が責任を取る」と言って社内を押し切りました。

そして中井社長と人事部長の2人が前述の復帰促進センターを訪問。応募者4人と面接しました。全員が家庭崩壊という話を聞き、思わずもらい泣き。2人に即内定の通知を出します。半年後2人が仮出所し、着の身着のままでやって来ました。

身元引受人になり、住まいも提供。全従業員にも通知しました。それまでの協力雇用主制度では、良いことをしているのに、会社も元受刑者もそのことを伏せるのが一般的でした。しかし中井社長は、支援するからにはオープンにしよう、関西ではそれなりに知られた千房が受刑者を雇用した、そのことを知ってもらおう、と思いました。受刑者に対する世間の偏見を少しでも減らせたら、と考えたのです。

しかし、この試みは手ひどいしっぺ返しを食います。

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