採用した2人はその後、1人は店の売り上げに手を付け逃亡、もう1人は女性問題を引き金に転職、いまも音沙汰がないそうです。
「社内の信頼関係がもうガタガタになりました。でも、千房の就労支援をニュースで知った方々から、『勇気ある行動を応援します』『食べに行きます』という応援もたくさんいただきました。『日本もまだまだ捨てたものではない』と勇気づけられたものです」
そんな折、公益財団法人日本財団から6カ月間、1人当たり月8万円を支援するとの提案がありました。寮や寝具、衣類などで1人70万~80万円かかるので有り難く支援を受け、再度、就労支援に携わることを決意します。先の2人はたまたまで、これから受け入れる人はまた違うかもしれない、悪いこともそうそう続かないだろう、と考えました。
「職親(しょくしん)プロジェクト」始動
しかしこの取り組み、どうしても1社では限界がある。そう感じた中井社長は、協力企業の組織化を進めました。中井社長が親しいオーナー社長6人に声をかけたら、すぐに皆さんが賛同。単に職場を提供するだけでなく、身元引受人として24時間面倒をみる、ということから、「職の親」として「職親プロジェクト」と名付けました。準備委員会を経て、2013年2月28日、大阪でプロジェクトがスタートします。
刑務所内で採用募集を始める、面接をする、内定を出す、しかも氏名をオープンにする。実は世界初の試みでした。参加企業7社で情報を共有。ある会社で具合が悪くても他の会社で受け入れてみる。雇用した元受刑者は7社共同で面倒をみる。成功事例、失敗事例もすべて共有することにしました。
千房では昨年までに21人採用し、4人が残留。裏切って辞めた者、再び罪を犯した者、夜逃げした者もいました。そのたびに心が折れそうになりますが、残ってまじめに働いている者の姿を見ると、勇気が湧いてきます。何が問題だったか、日々反省する毎日です。
中井社長自身、7人兄弟の5番目。家は貧しく、勉強嫌いでした。千房が軌道に乗った時、母親に「私がこうなると思ったか」と尋ねたら、申し訳なさそうに「まさか、夢にも思わなかった」と答えられたそうです。「親ですらわが子のことがわからない。人間は変わるし、無限の力を秘めている」と改めて感じ、元受刑者の就労支援にさらに力が入りました。今年、刑務所・少年院を含めた内定者を受け入れると、累計で25人を採用することになります。
プロジェクトは各地に広がり、実施拠点は東京、福岡、和歌山、新潟にも誕生しました。ただ、出所者を受け入れてくれるところは、全部が中小企業、オーナー社長企業です。上場企業の社長にお声がけしても「趣旨はわかるが、ちょっとまだ」と躊躇されるのが現実です。ただ最近、埼玉の大手リサイクル企業や大手ラーメンチェーンがプロジェクトに参加、といった嬉しい話も出てきています。
「目玉となる企業がこの『職親』に参加してくれると、一挙に運動が広まります。近い将来、出所者を採用するのが当たり前の時代になることを願っています」と中井社長。参加企業は年々増えて現在78社ですが、さらに大企業への浸透、各地への広がりを模索中です。
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