「リーガルデザイン」は世界をどう変えるのか 法律のグレーゾーンはビジョンで乗り越えよ

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――ビジョンをPRして、社会の共感を集めていかなければ、乗り越えることは難しい、と。一方で、「規制が存在すること自体を悪」と考える発想の人も少なくない印象があります。

みなさん忘れがちなんですけど、適度な規制は市場を活性化させる面もある。これはすごく重要な視点で、適度な規制を作り出すことによって予測可能性が立ち、大企業や資本の参入を呼び込んで市場を活性化させることができます。「法律が原因でイノベーションが阻害されている」と言われることが多いですが、実際に、法律が真の原因で阻害が起きている例はそれほど多くないと思います。規制そのものが悪いわけではなく、何が「適度か」がすごく難しい。

たとえば、日本でもいい検索エンジンの技術があったけど、当時は著作権法上違法かもしれない、という見解があり、それによって萎縮してしまい、グーグルをはじめとする米国の技術に先を越されてしまったのではないか、という1つの仮説があります。しかし、検索エンジンが、日本では著作権法に違反していたものだったのかというと、これには諸説ありました。疑問をもっている学者や法律家は当時もいて、チャレンジする姿勢さえあれば、実現できたかもしれない。なんでも法規制のせいにすることは簡単ですが、「日本は、イノベーションをやるにはダメな国だよね」と思い込んで、萎縮してしまっているメンタリティのほうが問題だと思います。

「法令遵守」という思考停止をやめよう

法務の仕事も、調べればわかることはコモディティ化されていくでしょう。法文や判例の調査、簡単な契約書の作成などは人工知能と相性がよいと思います。

今の時代、法律的にグレーの状態に対して「違法の可能性があるからやめましょう」というのはすごく簡単なことです。だって、これだけ社会が揺れ動いている時代にリスクが存在しないことのほうが少ないですからね。やめさせておけば自分も責任を負わないし、何も問題は起きません。でも、逆に本当にやってはいけないことも実はけっこう限られていると思います。「法令遵守」ということで思考停止してしまい、ビジネスマンやクリエーターが過度に萎縮してしまうのが、いちばんよくない。

『法のデザイン―創造性とイノベーションは法によって加速する』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

――人工知能の技術進展が予測されていて、「法務もコモディティになる」と言われることもあります。法律家が社会に必要とされるためには、今後どのようなメンタリティが必要になりますか。

患者から「風邪だとわかっているけど、やりたいことがある。どうすればいいのか」ということに法律家としてどう応えられるかが重要で、それに対して「風邪なんだから無理しないで寝ていなさい」という回答をしても意味がない。これは法律上微妙だけど、それをどう安全にやるかという知恵を出せるか。もちろん、本当に止めないと死んじゃう場合もありますので、その場合はしっかりストップをかける。でも、その場合でも、養生しながらできることを一緒に考えたり、早期の回復を目指し、回復後の計画を一緒に考えたり、そういったオルタナティブ(代替案)をきちんと提示することができるか。ここがロイヤーの腕の見せ所であり、今後ますます求められていく法律家の能力になるのではないでしょうか。

法曹界は、特に経験が重視される業界ですが、ネット前後の肌感覚を持っているのが、われわれの世代の強みです。あるすばらしいサービスが生まれてきたとして、一般の人々の感覚として「これが今の時代に必要なものだ」と判断し、確信を持って後押しできるロイヤーはまだ少ない。こうしたことに価値を感じていただけるクライアントを、これからもサポートしていきたいと思っています。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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