「リーガルデザイン」は世界をどう変えるのか 法律のグレーゾーンはビジョンで乗り越えよ
――目の前の変化に合わせて、その都度、どのアプローチがふさわしいのかを考えながら設計していく必要があるということですね。
ルールメーキングを柔軟に行うためには、法律だけでなく、柔らかい規範である自主規制や、情報空間の中の構造であるアーキテクチャなど、そのグラデーションが重要になります。
日本では、コンプライアンスは「法令遵守」と訳されていて、単純に「法令を忠実に守る」という意味で理解されてきましたが、社会が激変する中で法令が予測することができない時代には、無力と言っても過言ではありません。国家が一方的に定めるルールに従うのではなく、私たち私人側から、主体的にルールを議論し、作り上げていく必要があります。
ボトムダウン型ではなく、ボトムアップ型のガバナンスが必要になってくる。そして、そのボトムアップ型のガバナンスにおいて必要なマインドが「リーガルデザイン・マインド」ではないかと私は思っています。
どの分野にも共通のテーマや問題意識が表出してくる
――本書では、音楽、ゲームからアート、不動産、政治まで、あらゆる分野についてこの「リーガルデザイン」のあり方を分析されています。
インターネットが普及して以降のさまざまな契約や法解釈の工夫、そしてアーキテクチャとの協働について考察しました。すでに先行して試みている事例の考察や分析の中から、法とアーキテクチャの設計と協働について、適切なバランスや方法論が見えてくるのではないかと思いました。だから、本の各論を読んでいただくとわかるのですが、まったく違うジャンルを語っているのに、どこでも共通のテーマや問題意識が表出してきます。その共通する部分が何なのかが重要になってくるのではないかと。
ルールとして決められたものを、ただ守っていく社会は停滞し、疲弊していきます。既存のルールの存在意義を確かめることはもちろん前提ですが、そのルールがもう古いものじゃないのか? 本当に今の社会にフィットしているのか? 自分たちのビジョンを達成するために守るべきものなのか? そうやってルールの意味を主体的に考えていくことが大切です。
――日本は、よくシリコンバレーの状況と対比されてネガティブに語られることが多いですが、どのような点が大きく違うと思われますか。
アメリカ西海岸でも、日本以上にコンプライアンスが求められているわけですが、彼らのコンプライアンスは単なる「法令遵守」ではなく、法解釈や法律そのものが、時代とともに変化することを当然の前提としています。社会的に企業に求められることであったり、自社サービスのビジョンを達成するためであれば、既存の法律に若干バッティングする部分があったとしても、それは超えていかなければいけないものだと彼らは考えている。
自分たちのビジョンを実現するために、既存の法律と摩擦が生じる部分があるとしても、その部分について「現行法の中でもギリギリこう解釈できる」と法律家にロジックを作らせる。ときには法廷闘争にも巻き込まれながら、その闘いと並行しつつ、法務部とは別にある公共政策部がロビー活動を進めていきます。そして、2~3年かけてサービスを軌道に乗せ、一気に市場を取りに行く。こうした発想も含めて、コンプライアンスなんですよね。ここが日本と大きく違うところです。
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