長期金利の上昇は異次元緩和の副作用として批判されたが、日銀が買い入れ方法を改善したり、市場も新しいオペレーションに慣れてきたりしたことによって、市場は安定を取り戻しつつあるように見える。
しかし、長期債市場が不安定化したことよりも、むしろ、物価上昇率が徐々に高まっているにもかかわらず、長期金利がたいして上昇していないことのほうが、より大きな問題なのではないか。
佐藤健裕審議委員は、7月22日の講演で「そもそも『量的・質的金融緩和』は国債市場への政策効果という点において相反する二面性を有する」と述べている。国債の需給が引き締まって金利を抑制する一方で、デフレ脱却に近づくことで上昇圧力が加わるからだ。
消費者物価上昇率が高まりつつあるにもかかわらず、金融市場が金融緩和による長期金利の低位安定というシナリオに沿って行動していることは、将来、大きな問題を引き起こすおそれがあると考える。
デフレ脱却なら短期金利は引き上げられる
デフレから脱却しても日本経済は低迷が続くので、金融緩和が永久に続くと思っている人は少なくない。民間シンクタンクの中長期見通しでも、10年後に消費者物価上昇率が1.5%になっても、ゼロ金利政策が続くという予測もある。しかし、政府・日銀が目標としている物価上昇率2%という目標が達成できた暁には、コールレートはかなり上昇しているはずだ。
日本銀行によれば、信用度の高い大企業への貸し出しが多い都市銀行の新規貸出約定金利(短期)は、2013年6月分では0.356%という低水準だ。物価上昇率が2%になってもこの金利で借り入れができるのであれば、銀行から資金を借りて原材料を購入して寝かせておくだけで必ず利益が得られる。日本銀行が短期金利を低いまま放置すれば、値上がり益を狙った投機的な需要の増加で価格上昇が起き、それがさらに投機を加速させるという悪循環に陥る。
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