アウディA3の高性能版、「S3」に乗ってみた

290馬力、7速、フルタイム4WDを操る

例によって、「アウディドライブセレクト」なるモード切り替えが付いており、これを「ダイナミック」にして長尾峠に攻め入れば、それまで木管楽器みたいだった排気音が5000rpmを超えるとクオォーンッという高音に転じ、心臓を高鳴らせる。

4時から8時あたりまでがフラットになった、Ω型の変形ステアリングホイールはロック・トゥ・ロックがわずか2回転。速度によって前輪の切れる角度が異なる「バリアブルギアレシオ」を採用していて、高速道路を走行中には安定方向に働く一方、長尾峠のようなワインディングではダイナミックかつスポーティなハンドリングを提供する。思うように曲がる。

乗り心地は「コンフォート」でも「オート」でも「ダイナミック」でも、飛ばすほどによくなるけれど、筆者の好みからするといささか硬すぎのように思えた。正直に申し上げて、S3は2014年ヴィンテージのほうが私の好みなのだった。

けれど、アウディは筆者の好みではない方へと舵を切った。なぜなのだろう? 

自動車を語る醍醐味

アウディは「スポーティブネス」に関して、これまではクールで知的なアプローチをしてきた。高効率のクワトロによる勝利、「技術による先進」でもってプレミアム市場を切り開いてきた。スポーツとプレミアムは同義である。性能が高ければ価格は高くなるからだ。

ところがここへきて、Sモデルやさらに高性能なRSモデルを登場させてはや3世代目ともなり、次のステップに向かうべきだと思い始めたのではあるまいか。具体的には、メルセデス・ベンツが乗り心地を硬くすることで若返りを図ったように、このS3に関していうと、一度2014年モデルで完成したものを17年モデルではあえて壊しちゃうということを試みているように筆者には思われる。

そういえば、アウディ R8やRSモデルを開発してきたクワトロ社が昨年、元ランボルギーニCEOのステファン・ヴィンケルマンを迎えて、年の瀬に社名をアウディ・スポーツ社と改名した。Sモデルは公式には関係ないけれど、ぜんぜん関係ないこともないだろう、と筆者は勝手に推測する。

このような筆者の勝手な推測を読まされた読者諸兄は「それがどうした?」と思われるかもしれない。どうもこうも、じつはこういう勝手な意見を80〜90年代のクルマ好きは戦わせていたのであり、21世紀のこんにち、また戦わせるべきだとは思わないけれども、今回S3に乗った私はそのような感慨を得たということをお伝えしたかった。なぜかといえば、筆者はこのような感想こそ、自動車を語る醍醐味だと思うからです。

なお、テスト車の車両価格は606万円ながら、アウディマグネティックライド(13万円)、Bang & Olufsenサウンドシステム(8万円)、アウディデザインセレクションエクスプレスレッド(ファインナッパレザー、レッドアクセントリング付きエアコン吹き出し口 24万円)、マトリクスLEDヘッドライト(11万円)等のオプションが付いていて674万円と、新型A4 アヴァント 2.0TFSIクワトロ、626万円を買ってお釣りがくるお値段になっている。

スポーティブネスとはプレミアムなのである。プレミアム・ブランドとは、すべてのモデルに高性能バージョンを揃えたメーカーのことなのだ。だから、どんな高性能がよいのか、ということについて語ることに意味はあるのではあるまいか。

(文:今尾直樹)

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