韓国文政権誕生で、米韓関係に訪れた「転機」 北朝鮮政策の違いをどう乗り越えるか

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この問題やそのほかの問題で、文大統領の当選は、朴前政権で限定的な進展しか見られなかった日米韓3カ国の協力を検証することになりそうだ。この進展の基盤は「慰安婦」合意だったのだが、ここには情報共有に関する3カ国間協定の調印も含まれた。文大統領は、いずれの合意にも反対し、慰安婦問題の議論を再開することを公約し、あからさまに釜山の少女像を訪問した。

この少女像の設置は、大使をソウルから一時日本に帰国させることを促したものだ。文大統領もよく知っているように、反日感情は韓国に深くしみ付いており、米国が促す日本の地域的な軍事的役割の拡大がこれに油を注いでいる。

韓国の選挙中に、ドナルド・トランプ政権の政策は多くを惑わせた。北朝鮮に対する軍事行動のあやふやな脅しと、厳しい経済制裁を課すよう中国を頼りにすることの組み合わせは、多くの韓国人を怖がらせた。韓国では、トランプ大統領は予想不可能で信頼できない指導者であるという認識が一段と広まった。米韓自由貿易協定を中止するという脅しや、韓国にTHAADシステムの配備費用として10億ドルを韓国に支払わせるという要求によって、この認識は一段と広がった。

米国との「食い違い」に懸念高まる

こうした中、韓国では文政権とトランプ政権の間で、「再び」食い違いが起こるのではないかという懸念が高まっている。2002年の盧氏の当選は、軍事訓練中に女子中学生が事故死したことに続く反米感情の波が部分的に推し進める形で、この緊張を激化させた。6カ国協議の初期の段階では、韓国政府はしばしば米政府や日本政府よりも、中国政府と協調していた。双方が2つの同盟国間で協力関係を取り戻すのには、かなりの時間と忍耐が必要になった。

ただし、文大統領も米政府とのあからさまな関係断絶に陥ることの危険性をよく認識しており、できるだけ早くトランプ大統領と意思疎通を図ろうとしているようだ。北朝鮮による挑発行動などの危機が訪れることなく、両指導者が相互理解を深める時間が与えられることを祈りたい。

しかし、韓国政府と米政府の明確な違いはハッキリしており、ジョージ・W・ブッシュ政権初期以降の同盟維持に大きな課題を突き付けそうだ。米国の政策決定者が、韓国の懸念や政策的な考えを聞く用意があることを示すのは必要不可欠だ。

彼らは関与政策の考え方や、あるいは北朝鮮政府との交渉過程で韓国が指導力を発揮する考えも、頭ごなしに反対すべきではない。米国はその主要な同盟国との緊密な政策連携を維持することに優先順位を置く必要がある。加えて米国は日本に対して、韓国の新政権に対する我慢強さを示し、慰安婦合意の議論を再開する考えへの過剰な反応を避けるよう、圧力をかける必要がある。

同盟の維持には、同盟国がそれぞれ独自の国内政治を抱えていることへの理解が求められる。トランプ政権が次に何が起こるのかを理解しているか、あるいは、分断を深めることなく対応する準備が政権にできているのかは、あまりにも不透明だ。しかし、米韓同盟を維持することは、北朝鮮がもたらす安全保障上の脅威に対処するための基盤である。これは韓国政府にとっても同じように言えることなのだ。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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