シャネル社長が「豊洲移転」に異議唱える理由 銀座の魅力は築地によって保たれている

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――築地にそこまで肩を入れる理由は。

築地が日本や東京にとってまさしくある種の「ブランド」だからです。築地は日本でも特に有名であり、すべての料理人にとって聖地のような場所です。こうした認識から、国内外から非常に多くの観光客が訪れるようになりました。実際、築地への訪問は忘れられない体験となります。

また、築地には多くの日本的な価値があります。築地は日本という国を最高の形で、なおかつ「生」で見せることができる場所なのです。技術、品質へのこだわり、伝統、人々の絆、味覚、美学――そうしたものがあそこには詰まっているのです。

高級店と庶民の店が混在している魅力

築地がなくなってしまえば、誰にとってもいいことはありません。日本はいま、「日本の食を体験したい」と考えている観光客を増やそうという取り組みをしています。そんなときに築地を移転するなんて、こんなひどい間違いはほかにありません。

――しかし、そもそも銀座のような高級エリアに魚市場があるのは場違いなのでは。

Richard Collasse/1953年フランス・オード地方生まれ。1975年パリ大学東洋語学部卒業後、同年より2年間、在日フランス大使館に勤務。ジバンシィ日本法人代表取締役などを経て、1985年シャネル日本法人に入社。1995年から現職。2006年、レジオン・ドヌール勲章を受章。小説家としても知られており、著書に『遙かなる航跡』や『紗綾(SAYA)』など(写真: Lucille Reiboz)

築地市場は、多くの銀座のレストランの質にとってのカギです。築地市場で働く人たちとの日々の対話がその質の高い料理を生み出しているのです。また、あなたが言うところの「高級エリア」、つまり銀座は、昔からおカネの余裕がある人も、そうでない人も楽しめる場所です。実際、銀座には高級な店と庶民的な店が混在している。銀座では、1000円ですし1皿食べることもできれば、100万円で奥さんにダイヤモンドを買ってあげることもできる。

銀座のアイデンティティはまさしく築地のような場所と、シャネルのビルや、歌舞伎座のような場所との間にある「緊張関係」によって生まれているのです。築地のように、銀座を銀座たらしめている場所がなくなってしまったら、どうなってしまうでしょうか。

――仮に移転しなくても、このままでいいというわけではありません。

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