亀田興毅企画ヒットさせたAbemaTVの豪胆 ネット放送局が地上波テレビに勝る武器
特にプロ格闘家ならともかく、素人の殴り合いだと、地上波ではかなり難しいだろう。「ケガしたらどうするんだ?」などというクレームが寄せられるのが目に見えている。ある意味、このボクシング企画は映画『ファイトクラブ』を連想させた。勝てば賞金という非常にわかりやすい企画だ。
この企画のすごさは、「ファミリー層を捨てた」という点にある。家族で一緒に見る事ができる地上波のゴールデンタイムの番組とはぜんぜん違う。それを完全に捨てて、見たい人だけが見ればいいという映画や興行、コンサートなどと同じような割り切りが企画の面白さをとんがらせたのだろう。だから元プロボクサーの亀田氏に白羽の矢が立ったのかもしれない。
というか、単純にはオフィシャルな団体が開催して、それを放送するのが放送局という通常のボクシングの試合である。まさか、素人が賞金1000万円をかけて闘うとは筆者も考えつかなかった。
毎年お正月に「夢対決 とんねるずのスポーツ王は俺だ!」という企画もあるが、それは、あくまで芸能人が世界のプロに挑んだりする企画である。素性もよくわからない素人が、登場したりはしない。
今回の亀田氏にチャレンジした人もホストに元暴走族総長というから、なかなか地上波テレビでは扱いにくい人物でもある。地上波だともしかすると「関係者からクレームが来るのではないか」と関係者が躊躇してしまう。
しかも最後のチャレンジャーは全身に入れ墨が入っていた。地上波なら全身モザイクになってしまい、試合がよくわからなくなっていたかもしれない。
この試合が行われていた同時刻、テレビ朝日は、ビートたけし氏を使ったニュースものの特番を放送していた。この亀田興毅企画をテレビ朝日とAbemaTVで同時に流す「サイマル放送」をやっていたら、視聴率はどれくらいいったのだろう? もしかするとその後の会議で、「次回はサイマル放送をやろう」という話が出たかもしれない。
計算づくの制作なら、大ヒットはなかったはずだ
きっと高視聴率を獲るだろう。いや、そんな視聴率の話をしている時点で筆者は失格である。そんなことよりも視聴者が楽しむコンテンツを作れるかどうかが大事だ。だから、この試合ではサーバーがダウンしたのだ。計算づくで制作していたら、こんな大ヒットはなかったはずだ。
知らず知らずのうちにボクらテレビマンは、「怒られない番組作り」を考える癖ができてしまっている。もちろん、無料でテレビという受信機で自由に見られるので、そこは考える必要がある。倫理も必要だ。ネット配信とは違う。だが、関係者や、視聴者、BPO(放送倫理・番組向上機構)に怒られないようにという心理がどこかにある。それが心にブレーキを踏んでいるのだ。それを筆者は反省した。
AbemaTVの看板ニュース番組「AbemaPrime」(アベマプライム、平日21~23時放送)のコンセプトは「オトナの事情をスルーする」。これはAbemaTV全体にもいえることだろう。AbemaTVでは、今後も地上波ではできない面白い企画が続々と登場するはずだ。「単純な面白さを追求する」という発想がネット世界にあふれていることを痛感させられる事象であった。
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