「信頼され続けるメディア」は何が違うのか エコノミスト誌が174年間堅持していること
山田:しかし、人々は歴史をすぐに忘れるうえ、軽視しているようにも思います。お隣の国のフランスでマリーヌ・ルペン候補が熱狂的な支持を得ているようです。排外的な政策がもたらす悲劇については、つい数十年前の歴史が語っているとおりですが、歴史を忘れたり美化したりするのが人間の本性かもしれません。
フランクリン:確かに、なぜEU(欧州連合)が誕生したのか、という歴史を踏まえていない。私の国(英国)も実は同じで、ブレグジット(英国のEU離脱)を決める国民投票が行われた際、多くの国民はヨーロッパとの長い歴史を振り返ることがなかったのだと思います。多くの人達が歴史をきちんと覚えておかなければならないと言うんだけれども、結局はそれほど覚えてはいないんだろうと思います。
最近アメリカに出張した際、非常に興味深い質問を受けました。「あなたの孫娘には何を勉強してほしいですか」という質問だったんです。私は技術の未来について説明する本を作っているわけですから、遺伝学やプログラミングと言っても良かったと思うんです。でも、ちょっと考えてみて、歴史をきちんと勉強してほしいと思いました。人類はこれまでどういう歩みをしてきたのか。それを知っておくことは、いつの世にあっても非常に重要だと考えるからです。
山田:技術の世界では、過去と断絶したディスラプション(破壊)が起きている。過去のことを学んでも意味はない、という考え方もあると思います。これまでの歴史からの延長ではないまったく新しい世界が未来には広がっているんだ、と。米国の西海岸では、とくにその考え方が強いように思います。
フランクリン:確かに、西海岸では技術的なディスラプションこそが継続的な人間の営みと考える傾向があります。
ただし、そうは言っても歴史は重要です。この本の第5章でアン・ウィンブラッドが書いているのですが、ディスラプションそのものが実はパターン化しているのです。彼女は、ディスラプションを大きな波にたとえて説明しています。
コンピュータ業界で言えば、今われわれが目にしている波は7番目の波です。過去には6回の波があったわけであり、過去の波で何が起きたかを知ること、つまり歴史を知ることが未来を予測する上では非常に重要なのです。今押し寄せている7番目の波を観察することによって、未来を予測できるわけです。
「トラスティ」が編集長人事を決める
山田:『エコノミスト』の経営についても伺います。ピアソン社は『フィナンシャル・タイムズ』(FT)を日本経済新聞社に売却した後、50%出資する『エコノミスト』の株式も売却しました。現在の大株主はどのようになっていますか。
フランクリン:フィアットの創業者であるアニェッリというイタリアのファミリーが大株主になっています。もともと少数(4.7%)の株を持っていましたが、買い増したことで今では40%以上(43.4%)の株式を保有するようになりました。
ただ、私たちの場合、株主が変わっても編集方針や経営が影響を受けないようにする特別な仕組みを持っています。まず、過半数の株式を保有するオーナーには誰もなれません。そして編集長の選任など重要な経営方針を決めるのは実業界の「トラスティ(受託者、評議員)」であって大株主ではない。重要な経営判断は、トラスティがやることによって編集の独立性を確保しているのです。
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