日経とFT取り合った独巨大メディアの正体 老舗アクセル・シュプリンガー変貌の軌跡
ドイツの新聞・出版大手アクセル・シュプリンガーの経営トップが米市場に狙いを定めたのは3年ほど前のこと。マティアス・デップナー最高経営責任者(CEO、52)らがまず取り掛かったのは、そろばん勘定ではなく、米国に学ぶということだった。
デップナーは2002年にCEOに就任。それから10年、デジタル時代に向けた社の改革は大いに進んだ。
経営陣がシリコンバレーで「学習」
同社の看板とも言える新聞2紙(「ビルト」と「ディ・ベルト」)のデジタル版購読者数は、合わせると欧州でもトップクラス。投資を積極的に行った結果、売上や利益に占めるデジタル事業の割合も増加している。
それでもデップナーは、序列を重んじリスクを冒すことを恐れる考え方が幹部らに根強いことを懸念していた。そうした姿勢は、グーグルやフェイスブックといった、フットワークのいい米国のインターネット企業や、バズワードやバイスといった新興のデジタルメディアとの競争において弱点になってしまうというわけだ。
ベルリンにあるアクセル・シュプリンガーの本社で取材に応じたデップナーは「社風を急いで変えていかなければならないことは私の目には明らかに思えた」と語った。
そこでデップナーが採った手段は、金のかかるコンサルタントを多数そろえるのではなく、一種のショック療法だった。
2012年の夏から9カ月間にわたり、デップナーはアクセル・シュプリンガーの経営幹部3人をカリフォルニアに送り込んだ。与えられた使命は、パロアルトにある借家で共同生活を送りながらシリコンバレーの企業経営者らと人脈を作り、米新興企業の文化を研究することだ。
シリコンバレーでの学びは会社にしっかり根付いた。デジタル事業はアクセル・シュプリンガーの売上の60%以上、営業利益の70%強を稼ぎ出すまでに成長した。ネット事業を拡大するという同社の未来像について、幹部たちは迷いを振り払うことができたらしい。