「CM炎上取り下げ」多発のワケと過剰反応の罠 主張したいのなら批判かわせる覚悟と確信を

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実は、大企業ならではの内部事情がある。大企業なほど、広報一般を取り扱う部署「広報部」と、CMなど広告を取り扱う部署「宣伝部」は別。中には両者の仲が悪いところさえもあったりする。広報部が、宣伝部から「CM出来たからリリースしてプロモーションしてよ」と言われて初めてCMの内容を知るということもあるという。

「いわゆる広報部署は昔から株主やマスコミなどの応対をすることが仕事で、意見をじかに聞くことが多く、リスク回避発想すぎるところがありますが、CM所轄の宣伝部や、それを作る大手広告代理店のリスク意識が薄かったということもあるかもしれません。今まで、電話くらいでしか反応が来なかったのが、急に『炎上』なんて大きな波になった気がして、ビビっている感じなのではないかと」(宮﨑さん)

広報部と宣伝部のお互いのすり合わせが事前に行われていないために、広告にかける思惑の違いや、部署としてもともと持つ発想の違いが炎上をきっかけに初めて浮き彫りとなった結果、あっさり取り下げて炎上ダメージの責任の所在をあいまいにし、八方を収めがちなのかもしれない。

クリエーティブとPRの手綱を握るバランス人材の不在

メディアにテレビやネットが加わったことでリーチできる裾野が広がり、広告文化も円熟に近い成熟を迎えた現代。海外の広告では、メッセージ性があり、見る者の心に残り、突き抜けたクリエーティブが見られ、それらは案外おおらかに「面白い」と受け入れられ、楽しまれているように思う。なぜ、日本では仮に炎上覚悟だとしても「面白い」と受け入れられる広告が生まれにくいのだろうか。

宮﨑さんは、日本企業にはトータルで広報戦略の手綱を取り、リスクテイクする部署や人材が不在であると指摘する。「海外だと、コミュニケーション全般を統括する、チーフコミュニケーションオフィサー(CCO)として統括責任者を置く場合が増えていますが、日本で取り入れている会社はあっても、まだそれほど機能していないというのが実情だと思います」(宮﨑さん)。日本の企業には、あらかじめリスクも計算した総合的な宣伝広報が少ないということだ。

宮﨑さんはかつて仕事上で、ライフネット生命の出口治明会長からかけられた言葉が忘れられない。「意見を言うとか、反論するとかって、池に石を投げるみたいなもんなんだよね。石を投げて、波紋は広がるけどやがておさまるんだよ。だから、言わないと!」。

ネット上の炎上が世の中の大勢を占める意見だとは限らない。一部の人の意見が増幅されて伝わっている側面も少なからずある。企業側も主張したいメッセージがあるのなら、批判をかわせるだけの「覚悟」や「確信」が必要だ。

河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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