70億人が共有する「政治的思想」は存在しない

なぜ正義は流行らなくなったのか

全員が善良でかつ賢明でなければ回らないような社会は制度設計が間違っています。一定数の「大人」がいて、自分勝手なふるまいをする「子ども」たちの分の「しりぬぐい」をする。それが人間たちの社会の「ふつう」です。一方に身銭を切る人たちがいて、他方にそれに甘える人たちがいる。それは仕方のないことなんです。彼らは悪人であるのではありません。たとえ老人であっても、権力者であっても、大富豪であっても、彼らは「子ども」なのです。全員が利己的にふるまっていては共同体は持たないということがまだわかっていないのです。その幼児性は処罰ではなく、教化と治癒の対象なのです。

じゃあ、その「身銭を切る人」はどうやって担保するのか、と気色ばむ人がいると思います。おっしゃるとおりです。「大人」の確保を制度的に担保することはできません。人間を強制的に「大人」にすることはできませんから。できるのは、「大人」が愉快に、気分よくその「身銭を切る仕事」をしている様子を「子ども」たちに見せることだけです。それを見て「あれ、楽しそうだな」と思った「子ども」たちの中から次の「大人」が出てくるのを待つしかない。

アメリカの衰退傾向はもう止められないと思います。大統領自身が非寛容な政治的目標を掲げて、それに賛同しない国民を攻撃し、排除しようとしている。そして、鏡に映したように、大統領に対する批判も同じように攻撃的で非寛容で嘲弄的なものになっている。分断が深まると、両陣営の間に対話の回路を架けることはきわめて困難になる。前月号でも書いたように、アメリカ社会は、異文化との架橋に成功し、異質なものを受け入れると繁栄し、集団を分断し、異質なものを排除すると勢いを失うというサイクルを繰り返しています。

今、アメリカは異物を排除することで同質性を高め、そして国力を失うという「退化のプロセス」に踏み込みました。ヨーロッパ諸国もそれに続こうとしています。イギリス、フランス、オランダ、ハンガリーなどでは近いうちに高い確率で排外主義的な政権ができるでしょう。彼らの掲げるシンプルでチープな「物語」に抗して僕たちができるのは「柔らかい、和やかで、もっと厚みのある複雑な気づかい」だけです。それはお訊ねのような「新しい理念」というよりは「昔ながらのやり方」に過ぎないのですけれど。

(イラスト: しりあがり寿)

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