格差拡大を放置すると日本の社会は瓦解する 「平等な関係」を構築するための制度とは?

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──セーフティネット整備が重視されます。

所得が十分でない人は生活保護でといった考え方になってしまう。生活保護では働くインセンティブが弱いし、とかく給付が問題視もされる。

社会保障は事後的な救済としてではなくて、若い時代から不利な条件をなくし、平等な足場で社会の舞台に立っていけるようにプロモートする機能こそ重要だ。だが日本の社会保障制度はこの点が弱い。たとえば政府の教育支出はOECD(経済協力開発機構)諸国の中で下から2番目だとか。

たとえば、いくら才能があっても家庭が貧しいから大学に行けないといったことにもなる。社会全体で見れば生かせたはずの資源が生かせない。挫折しやすい条件で社会に入れば、それだけ転落もしやすい。こういう社会問題に対処するコストも増えかねない。

子供の貧困に関心が集まっているにしても、後期高齢者への重点志向から転換し、早期幼児教育から始め切れ目なく若者を支援する制度に切り替えないと、分断社会での将来世代の未来は厳しい。

唱えられたトリクルダウンは起こらなかった

齋藤純一(さいとう じゅんいち)/日本政治学会理事長。1958年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。専攻は政治理論、政治思想史。米プリンストン大学客員研究員、横浜国立大学教授、早大政治経済学部教授、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)客員研究員などを経る。著書に『公共性』など。(撮影:尾形文繁)

──実証できなかった均霑(きんてん)理論への反省?

1980〜90年代に「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる」とするトリクルダウン効果(trickle-down effect)が唱えられた。しかし、実際にはそうではなかった。機会が閉ざされているがゆえに才能や適性を生かすチャンスが与えられないと、社会の停滞を招く。ある一部に富が偏るよりも、ボトムの活性化に力を入れたほうが、経済的な観点からいっても効率的だと考えを切り替えたほうがいい。

──福祉国家的な方向もある?

福祉国家志向でも、民主主義のあり方によってだいぶ社会保障制度が違ってきている。今、大きくいえば2つの流れがある。米英、ドイツもそうだが、トップダウンによる新自由主義的な思考の国は、減税の一方で、その分社会保障もカットする。そして働いていない人は、ワークフェアで無理やり職に就かせる方向だ。

一方、フランスやオランダの場合は社会参入のルートや手立ての厚みを増すことを優先する。こちらは各種の組織・運動体がさまざまな観点を突き合わせて、ボトムアップで社会にかかわっていくルートを開拓する。正規での完全雇用は無理としても、補完的な所得との組み合わせで収入水準を確保する方向だ。

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