格差拡大を放置すると日本の社会は瓦解する 「平等な関係」を構築するための制度とは?

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──「完全従事」を目指す社会ですか。

今後も正規雇用で十分な収入が得られて生活の安全保障を構築できるという人は一部だろう。今や生産性が高い企業はあまり人を吸収しなくなっている。しかも人工知能が活用されてくるので、十分な収入が得られる職種はさらに限られてくる。

そのため、いろいろな組み合わせで働く。単に1つの仕事をするのではなく、たとえば雇用は部分的で、残りのある部分は自営で働き、それでも十分な所得に達しない場合には給付型税額控除、つまり「負の所得税」で収入を補っていく。

雇用(エンプロイメント)ではなくて従事(エンゲージメント)、それが広い意味での「働く」になる。教育や訓練を受けることでもいい。社会的に有意義な活動に携わってもいい。ボランティアや社会的企業でケアワークに従事するのでもいい。それら全体をエンゲージメントとして評価しサポートする制度だ。

自律の保障こそが重要

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──熟議デモクラシーが支えになる?

政治は数の力とおカネの力で動かされやすい。熟議デモクラシーは理由の力が主軸になる。なぜこの政策がいいのか、または危ないのか。正当化している理由について、市民社会のいろいろな場で行われる議論を組み合わせ、突き合わせて意思形成をし、政策を作っていく。

そういうデモクラシーのあり方なので、数の力やカネの力がなくても、理由の力があれば政策を動かすことができる。1990年代の新潟県巻町、岐阜県御嵩(みたけ)町や徳島県の吉野川河口堰(ぜき)での住民投票が事例になる。単に直接投票をしているだけではなく、集中して情報交換、意見交換をして、専門家を交え勉強もする。そうすると、思い込みや今まで持っていたイメージが変わり、共通してコミットできる価値がよくわかってくる。

──個々人の自律が問題に。

基本的に制度にも人にも依存し、生活を送るのが人として当たり前の姿だ。依存しながらも他者から支配されない、言いなりにならないように、自律の条件を作っていくことが社会保障の役割だ。自分の感じていること、思っていることを表明できるような自律の保障こそが重要なのだ。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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