盛り上がる「地方創生転職」ブームにご用心 生活環境はよくても、仕事満足度が今一歩?

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それは、都市部から地方に移ったことで感じる仕事の質の変化が理由かもしれません。地方の市場は小さく、都市部に比べて「目新しい」「流行に敏感」「刺激的な」仕事に遭遇する機会が、ゼロとは言いませんが、どうしても少なくなります。これまでの経験を生かして仕事をしようとすれば、物足りないと感じることもあるでしょう。そこで、

《仕事に対するやりがいは少ないが、生活環境が改善されたのでおおむね満足》

と、やや妥協点のある満足の回答をしていると思われます。

U・Iターン転職を加速させるための課題

だとすれば、U・Iターン転職を加速させるために課題があることを認識する必要があります。では、課題とは何か? そのヒントとなるデータがあります。

リクルート社の調査によるとU・Iターン人材の約3割は半年も経たないうちに仕事に対する満足度が急激に下がっているとの調査が出ています。

この3割は生活環境だけで妥協できず、仕事面の満足も求める層と筆者は想定します。おそらく、これまでの経験が十分に生かせないジレンマにさいなまれたのでしょう。そんなジレンマに陥った人を取材する機会がありました。それは元大手商社勤務のGさん。職場ではそれなりに活躍していたものの、地方創生に興味を持って地方の専門商社に転職。転職後の生活環境に家族は大満足。住居は広くなり、物価が安く、給与が多少下がったものの生活レベルはむしろ向上したと感じるくらいでした。

ところが仕事上では不満を感じる状態に陥ってしまいました。前職と比較して、仕事の規模感が大幅にダウン。さらに、自分に対して期待される業務も、過去に比べて簡単なものばかり。この状態で定年まで勤務することは耐えがたいと、再び都心に帰ることを家族と相談する状態になっているようです。

このように仕事面で不満をもち、将来的にOターンする予備軍は相当にいるのではないでしょうか? 地方創生の観点からすれば、こうした層こそ、地方に残って、活躍の機会と高い満足を得てほしいもの。では、どうしたらいいのか?

都市部での経験や記憶を捨てろとはいいません。ただ、地方での仕事において、高い成果を出して、仕事上での満足を上げるためには、地方で活躍するための「新たな学びの機会」をつくり、自己研鑽(けんさん)を行うという意識は必要ではないでしょうか。

地方の市場は小さく、仕事の進め方も都心部とは違いがたくさんあるでしょう。リクルート社の調査でもU・Iターン転職してから活躍しているという自覚のある人は、地域特性の分析や新たなビジネスノウハウの習得など、学びの機会を自らつくっている人が大半となっています。転職者として自ら学びの努力をすること。そして、企業や地域で学びの機会を提供することで、納得のいくU・Iターンが実現するように思います。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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