日本では「期待に働きかける」政策は効かない 水野温氏元日銀審議委員に「政策課題」を聞く
非伝統的金融政策はやってみてうまくいかなければ見直すべきだが、うまくいかないということを認めずに、新たな政策を上乗せしていくので、ますます評価が難しくなっている。量的・質的金融緩和の時に強調していた「マネタリーベース拡大による物価押し上げ」「ポートフォリオリバランス」についてはもうほとんどその言葉も使わなくなっている。10年物国債金利はゼロ%がなぜ適切だと考えるのかについても説明がない。
黒田総裁は「基調的なインフレ率は上がっている」と言っているが、企業のインフレ期待が十分高まっていないため、仕入れ価格上昇分を販売価格に転嫁できない。マイナス金利政策の長期化、金融機関の収益力を低下させ、最終的に「金融面の不均衡」を拡大させる。現在の金融緩和の枠組みは「将来展望が描けない」というしかない。
――そもそも、日本では欧米のような物価上昇が実現していないのはなぜでしょうか。
国民は長生きリスクや非正規雇用の不安に直面
「期待に働きかける政策」というのが、日本では効かないということがわかったといえる。財政規律が国会議員には働かないが、国民には働いているのかもしれない。将来の増税や年金カットの不安を考えて、若年層はますます貯蓄を増やしてしまう。国民がきまじめだというのもあるかもしれないが、実際に、今、長生きリスクに直面していることが大きい。
もう一つ不安が高まった背景としては、非正規雇用が増えてしまったということがある。安倍晋三政権は消費増税で消費が弱くなったとしているが、非正規社員が増え、恒常所得の増加テンポが鈍り構造的に消費が弱くなったのだと思う。人口動態の変化と、雇用形態の変化が消費を弱くしている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら