日本では「期待に働きかける」政策は効かない 水野温氏元日銀審議委員に「政策課題」を聞く

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――金融政策、財政政策も限界にきているということであれば、やはり構造改革しかないですね。

アベノミクスで言えば、これからは成長戦略に軸足を移してそのために必要な構造改革をやっていく、ということだろう。

白川方明前総裁のときに、デフレの原因は何か、という議論で、一つは潜在成長率の低下(労働力人口の減少)、もう一つは日本がいわゆる競争力のない企業を温存していたので労働生産性の低下が問題、という話があった。東日本大震災の影響もあり、労働生産性が高い製造業はいち早く空洞化してしまった。サービス業は雇用を増加させているが、生産性が低いので、生き残りのためになかなか値上げ、賃上げができない。サービス業の生産性を上げる必要がある。

ロボティクスで人口減少の影響を克服できるか

興味深い話題は、"secular stagnation"(長期停滞論)を声高に主張していた米国の学界で、「"Robotics"(ロボティクス)で人口動態の影響は克服できる」という新しい論調が出てきたことである。実際にそうなるかは別として、「人口動態悪化は労働力人口の減少及び労働生産性を低下させるため、潜在成長率は低下していく」という陰鬱な論調に対して、「高齢化と1人当たりGDPの相関関係は弱い。日本の1人当たりGDPは今でも高いが、労働代替型のロボットや自動化で、潜在成長率を若干上向かせることも可能である。」という論調は新鮮である。

高齢者が増えることでサービスへの需要は増えていくため、介護ロボットなどは有望な分野だ。ロボティクスは労働者の不足を補っていくとともに、働き方改革のうえでもプラスになる。それによって生産性も上がっていくので、有望なイノベーションだ。

アベノミクスでトリクルダウンが起きなかったという話があるが、地方は人口減少も深刻だが、真の問題は人材不足。「地方創生」という掛け声はあるが、たとえば地方の大学には教授も学生も学校経営者も不足している。

ロボティクスやIoTにより生産性を上げて、短期就労ビザの取得要件を緩和して、日本国内で賄えない必要な人材は海外から来てもらうという発想も必要だ。そのための規制改革、構造改革とイノベーションを進めて潜在成長率を少しでも上げていくというのが、日本経済が縮小均衡から抜け出すための成長戦略の中心に来るべきだろう。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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