フランス人が日本人の働き方に感じる「恐怖」 「忙しいこと」がなぜステータスなのか
さて、日本語を勉強するフランス人が必ず覚えなければならないのが、「ご苦労さまです」「お疲れさまです」などの仕事にかかわる言葉だ。これらの表現は、「頑張る」と同様にフランス語には存在しない。「苦労」をすることがなんとなく強調かつ尊敬されているというのが伝わる。
また「一生懸命」という、日常的によく聞く日本語の初級レベルのこの四字熟語は、仕事などを達成したいことに命を懸けることをよく表している。私が日本に住んでいたときに、公立高校の室内や、外を歩いているとたまに工場の外壁にでかでかとその4文字が貼られていることにビックリした。フランスではとてもありえない風景だからだ。
日本人が驚くフランス人店員の愚痴
一方、フランス語で「仕事」「働くこと」「努力」を表す単語は「travail トラバーユ」という。日本の求人情報誌と同じ名前なので、聞いたことがある人も多いと思う。あまり知られてないが、多くの言語学者によると、言葉の由来はラテン語の「tripalium トリパリウム」からきていて「拷問」という意味があるとされている(実は、出産直前の強い陣痛も同じ「travail トラバーユ」という言葉だ)。
大気汚染で曇りっぱなしのパリの灰色の風景を、渋滞で動かない車の窓から眺めながら、1人で愚痴言いながら職場に向かうフランス人には、このいかにも苦しそうな「トラバーユ」というイメージはぴったり当てはまる。
しかも、フランス人の場合、単に仕事が嫌いというよりも、「仕事がどれだけ嫌いか」を話のネタにするのが好き、という国民性がある。週末に友人と集まってはお酒を注ぎながら1週間のストレスを忘れるかのように、職場の愚痴大会を開催するのはよくあること。初対面の店員さんと雑談しているとき、その店員が「今日は忙しくてすっごく大変だったよ! もうぐったりだから早くも帰りたい!」というのも珍しくない。これには、フランスに住み始めたばかりの日本人も驚くようだ。
逆に、私が日本で働いていたときに気がついたのは、「忙しい」という言葉に日本人がどれだけ価値を見いだしているかということだ。
日本に来た当時、20代の日本人の友達に「最近どう?」と聞くと、「仕事忙しい!」もしくは「忙しい」というワンパターンの返答が多かった。東京の通勤時間や、都会のハイペースな生活のせいなのか。実際、なぜ忙しいのかわからなかったが、この言葉を聞くたびに、「このままでは大変だ。どうにか友達の『忙しい』を解決してあげる方法はないか」と頭をフル回転させて、必死に考えた。
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