ただ、トランプ氏は、ロシアと協力する方針を決定的に変えたのではなく、今回の攻撃でもロシア人には被害が生じないよう、攻撃の2時間前に攻撃予定を”通報”したと言われている。しかし、ロシアはそのような事前通報を受けただけでは、ミサイル攻撃を認めることはできない。ロシアにとって、シリアとの友好関係は今後も重要であり、米国のシリア攻撃に味方するわけにはいかないからである。
実際、ロシアではプーチン大統領以下、メドベージェフ首相、ラブロフ外相が口々に米国を非難。プーチン氏は「ミサイル攻撃は、主権国家に対する侵略であり、国際法違反だ」との考えである、とロシア大統領報道官が説明している。
米国で大統領就任以降、トランプ氏がプーチン氏を積極的に評価し、米ロ関係を改善する意思を示したので、世界は注目していた。ところが、シリア攻撃を機に、米ロ関係は再び悪化し始めてしまった。こうなるとトランプ政権はますますオバマ前政権に似てくる。
片や、トランプ政権の誕生以来、ロシアに対する融和的な姿勢を警戒してきた欧州としては、トランプ氏が今回のシリア攻撃によって、ロシアとの協力よりも、化学兵器使用を憎み防止することを重視するようになったので、安心しただろう。米国が同じ価値観であることを確認した、英、仏、独など主要国は、こぞって米国の判断を支持する声明を発表している。
イラクもアフガニスタンも混迷が続く
もっとも、トランプ氏は今回のミサイル攻撃後も、依然としてオバマ氏との違いを強調し、「もっと前に危機を解決する好機があった」「(オバマ氏の)こけおどしが事態を後退させた」と述べている。
トランプ氏が言っているのは、2013年、やはりシリア政府軍による化学兵器の使用が指摘された際、オバマ氏が軍事行動に出なかったことを指している。
しかし、シリアをミサイル攻撃したかどうかだけで比較しても、表面的なことしかわからない。オバマ氏がシリアを攻撃しなかったのは、米国議会との関係が理由だったからだ。
当時、米議会は化学兵器の使用を非難し、さらなる被害の拡大を防止しなければならないという考えが弱かったわけではないが、シリア問題にどこまで介入するかについては、慎重な意見が強かった。イラクとアフガニスタンで6000人以上の米兵が死んでおり、厭戦気分が今より強かったことが原因の一つだった。しかも、米議会では共和党が多数であり、オバマ氏としては、議会の承認を得られるという見通しがなかった。
オバマ氏の場合、法的には議会に諮らずにシリア攻撃を決定できるという考えだったが、大統領権限の解釈については意見が分かれており、やはり議会の承認を求めるべきだという考えを優先した。いやトランプ氏自身も、「当然議会に承認を求めるべきだ。それをしないのは大きな間違いになる」と言っていた(CNN、2017年4月7日)。つまり、トランプ氏も当時、軍事行動には慎重であるべき、ともとれる姿勢だったのだ。
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