「金正男暗殺」は、20年前の事件とソックリだ 故・金正日総書記のいとこ暗殺も2月だった
「なぜこの時期なのか」――。北朝鮮の最高指導者である金正恩・労働党委員長の異母兄、金正男氏が殺されたことをめぐって、多くの疑問点が出されている。そのようななか、事件の発生時期こそが、今回の事件を読み解く重要なカギとの見方が出てきた。それは、1997年2月に発生した故・金正日総書記のいとこである李韓永氏が殺害された事件を想起させるからだ。李氏はソウル首都圏・京畿道城南市のあるマンションで2月15日に殺害された。
この事件は北朝鮮にとって「特別な日」の前日に発生した。2月15日は金総書記の誕生日である「光明星節」の前日である。そのため、北朝鮮内の各機関が最高指導者への忠誠心を見せる競争を繰り広げたものと多くの専門家が分析していた。「今回の事件も、現体制の基盤固めを目標に、北朝鮮内の各種機関が最高指導者への忠誠心競争を繰り広げ、金委員長へのプレゼントとして行われた」と、ある専門家は分析する。
李氏は北朝鮮のロイヤルファミリーの実像を暴露した本を出版するなどしたため、“金王朝”の怒りを買った。金正男氏もまた金日成、金正日、金正恩と続く三代世襲を公に批判したことで金委員長の怒りを買っていた。
金正恩側近による忠誠心競争のため?
金正男氏と長期間メールのやりとりを行い、2回の直接インタビューを行って金正男氏に関する本を出版したことがある東京新聞の五味洋治記者も、「金正男氏が金正恩側近による行きすぎた忠誠心競争によって殺された可能性がある」と見る。北朝鮮は毎年、光明星節を前に機関別に忠誠心報告大会を開くなど、金正日・金正恩への忠誠を誓う競争を行ってきた。
一方で、金正男氏が韓国に亡命しようとするのを阻止するために殺害したのではないかという「亡命阻止説」も出ている。これは、今回の事件を説明する重要な背景の一つだ。韓国の情報機関・国家情報院は否定しているが、金正男氏は亡命させる価値のあるターゲットの一人だった。韓国・統一研究院のチャ・ドヒョン研究員は「政権の頂点にいるファミリーが亡命したとなれば、ファミリーにとって対外的に大恥をかくことになる。一般的なエリートの亡命とは意味が違う。そのため、金正男氏をあわてて除去しようとしたのではないか」と指摘する。