シリア攻撃はトランプ「迷走」の始まりか 安保理は未承認、ロシアとは対立、ISも野放し

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国際政治において、当事者の主張がまったく異なることは、少なくない。特に紛争では、事実関係の確認は困難な場合があり、混乱状態を隠れ蓑にして虚偽の主張が行われるのは、遺憾ながら事実だ。

しかし、情報の量と質は近年、飛躍的に向上している。時間をかけ、かつ、双方の主張を子細に比較していけば、真実が明らかになってくることを筆者は体験している。今回の化学兵器使用についても、いずれ真相が見えてくるだろう。

いずれにせよ、今回の米国によるシリアへのミサイル攻撃によって、米国のシリア政策や世界の政治情勢は大きく変わり始めた。

現在のシリアでは、政府、反政府勢力および過激派組織ISが三つ巴状態にあり、それに米欧やロシアが絡んできた。

米欧はアサド政権打倒、ロシアは支援

この3つの勢力の区別は重要なので、簡単に経緯を振り返っておきたい。

シリアで政府と反政府勢力の対立が生じたのは、2011年、アラブの民主化革命(いわゆるジャスミン革命)の波がシリアに及んできたからである。シリア政府と反政府勢力との戦いは今日も継続している。この間、シリア政府でも反政府勢力でもない第3の勢力、いわゆる「IS」(イスラム国)が、シリアとイラクにまたがる地域でイスラム国家の建設を標榜して立ち上がった。シリア政府、反政府勢力、ISの三つ巴の戦いだ。

それに外国勢力が加わり、米欧は民主化を求める反政府勢力を支援し、化学兵器の使用をいとわないシリアのアサド大統領退陣を要求してきた。それと同時に、米欧はこれと並行して、ISに対して空爆を実施してきたが、十分な効果を得られていない。

一方、ロシアは、伝統的にシリア政府と友好関係にある。米欧によるアサド政権打倒の動きには反対しつつ、シリア政府軍によるISとの戦いを支援し、一定の効果を上げている。

そうした中、トランプ氏は当初、「ISを壊滅させるにはロシアとの協力が必要」との考えだった。そのため、オバマ前大統領時代の方針を変えて、ロシアおよびシリアと協力し、アサド大統領の退陣は要求しないこととした。が、その新方針を打ち出して3カ月もたたないうちに、シリア政府軍による化学兵器の使用問題が起こった結果、シリアの攻撃に踏み切ったというわけだ。

そうなると米国政府としては、シリア政府と協力することは不可能となる。いずれ民主化を求める反政府勢力を支援することになるだろう。つまり、三つ巴状態のシリアにおいて、トランプ政権は化学兵器の使用問題を契機に、表面はともかく、実質的には、オバマ前政権時代に戻り始めたのである。

「オバマ氏は優柔不断だったが、トランプ氏は行動する」という見方があるが、オバマ氏がシリア攻撃に慎重だったのは、後で述べるように、別の理由からだ。

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