4月に入り、ハワイ挙式に向けてパスポートを代理店に提出することになった。しかし、なぜか健治は一向にそれを持ってこない。
「何で? 毎回言ってるのに何で持ってこないの?」
「またそんなちっさいことにいちいち文句を言いやがって。本当にアバズレだな、おまえは」
「前にも言ったよね。けんかしても、言っていいことと悪いことがあるって」
「話のすり替えがうまいなぁ。アホンダラ、ボケ」
その日も大げんかになって別れた。これはもうさすがに結婚は無理だと思った。その夜、健治にLINEを入れた。
「これからのこと、キチンと話したい」
「結婚を辞めたいんだろ? 辞めてやるよ」
「そういう言い方ってある? とにかく会って話をしようよ。これまで私が立て替えてきたおカネの清算もしたいし」
そのメッセージへの返信はなく、再びLINEをいれようとしたら、アカウントがブロックされたのか、いつまで経っても既読にはならなかった。
翌日、ハワイの挙式の代理店から、「キャンセルを承りましたので、お支払いいただいていた内金からキャンセル料を引いて返金いたします」という連絡があった。健治が、ハワイ挙式をキャンセルしたようだった。
判明していく、とんでもない事実の数々
両親に事の経緯を話した。「親戚にもお披露目してしまったから、ここで結婚を辞めたことを伝えるのは気恥ずかしいが、あの男と結婚しても聡美は幸せにはなれないだろう」というのが父の見解だった。確かにそのとおりだ。
そして、冷静になって考えてみると腑に落ちないところがたくさんあった。これは結婚詐欺ではないだろうか? そこで知人に、結婚詐欺の裁判を視野に入れて弁護士を紹介してもらうと、「ちょっと調べてみます」と受任してくれた。
2週間ほどのち、弁護士から連絡があった。そこで語られたのは驚愕の事実の数々だった。
「教えてもらった住所で、住民票を取り寄せました。それがこれなんですが」。弁護士が住民票を見せてくれた。
「相手は34歳と言っていたようですが、生年月日から計算すると54歳ですね」
「えええーっ、ご、54!?」
「松原ひとみさんという方は、ご存じですか?」
「知りません。あ、でも、私、聡美なのに、ひとみって、しょっちゅう呼び間違えられていて、1度それでけんかになったことがあるんです。それは誰ですか?」
「ここでは、妻になっていますね」
「つ、妻ぁ〜????」
「今戸籍謄本も取り寄せているので、それが来たらもっといろいろとわかっていくと思います」
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