数日後、戸籍謄本が届くと、さらに新事実が露呈された。今の妻との結婚は2回目で子どもはいないが、前妻との間に30過ぎの息子が2人いた。そこで子の戸籍謄本を取ると、次男坊には5歳と4歳の子どもがいるので、健治には孫までいたことがわかった。
フェイスブックには「いい人がいれば結婚したいです」
さらに弁護士はパソコンを開きフェイスブックページを立ち上げ、健治のページを表示した。
「この方ですよね」
「そうです。えっ!? 私にはフェイスブックはもう辞めたと言っていたのに」
辞めたのではなく、聡美のアカウントをブロックし、聡美からは見ることができないようにしていただけだった。さらに健治のフィードには、驚きの動画がアップされていた。
「妹と暮らしています。36歳の独身です。いい人がいれば結婚したいです」
弁護士が苦笑いしながら言った。「今度は36歳になりすましていますね。まあ、確かに30代に見えなくもないですが」。
アニメのアンパンマンのようなふっくらとした丸顔にはシミひとつなく、おかっぱにした髪の毛からのぞく一重の目元にはシワもない。
「それにしても、かなり悪質です。内容証明を送りつけましょう」
内容証明は、これまで立て替えた代金の半額を支払ってほしいというものだった。しかし後日、健治側が立てた弁護士から、「支払いを拒否します」という書面が送られてきた。
第1回の口頭弁論では、こちらの主張に健治側の弁護士が真っ向から反論してきたという。反論してきた内容は、こうだ。
・ 出会った当初は34歳だと言ったが、付き合うようになって54歳という実年齢を明かしていた。
・ 結婚していることも正直に話した。
・ 既婚者だから、「別れる」と言うと聡美が泣きながら、「別れるなら死ぬ」と脅してきた。気の弱い健治は別れることができなかった。
・ 結婚式の写真も、無理やり写真館に連れて行かれて撮らされた。
・ 結婚式場も勝手に予約をされていた。
・ それで「これまでかかった代金を半額支払え」というのはおかしい。
・ 既婚者であることを知りながらつきあっていたのだから、逆に聡美は妻から訴えられる立場にある。
結婚詐欺にあった経緯をここまで一気に話すと、聡美は私に言った。
「彼が既婚者だと見抜けなかった自分も甘かった。だまされた私も悪い。だから最初は立て替えた代金の半額を支払ってくれたら、それで終わりにしようと思っていたんです。でも、これだけうそ八百を並べ立てて自分を正当化してきたのが腹立たしくて、腹立たしくて」
「ここまできたら徹底的に戦う!」。家族で腹をくくり、聡美は本人尋問のために出廷する覚悟でいたが、裁判は、3回目を終えたところで、あっけなく幕切れとなった。
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