このように、新幹線利用の目的地は都市中心部とは限らず、また、バスなどとの接続や旅客の誘導をどう改善していくか、地域交通全体を再デザインしていく視点が欠かせない。問題は、そのような営みに、誰がどう関わり、指針を定め、作業を進めていくか、だろう。JRグループの意図は測りかねるが、青函地域の行政や経済界、住民の側の意識や行動もまた、試されていることは間違いない。
もう一つ、興味深い情報がある。3月8日付の青森県の地元紙・東奥日報記事によれば、JR東日本の冨田哲郎社長は前日7日の記者会見で、東北新幹線・盛岡-八戸間の利用実績が、北海道開業新幹線の開業以降、2月末現在までで約630万人と、前年同期より16%増えたことを明らかにした。特に、北海道を訪れたインバウンド観光客が、新幹線を使って北東北へ足を延ばすケースが増えているという。
このこと自体は喜ばしいだろうが、筆者の調査によっても、青森市民の関心が函館市に集中する一方で、函館市民や北斗市民の意識は、「青森以遠」の盛岡市や仙台市に向かっている。
「青函圏」置き去りの懸念
上記のように、青函圏のダイヤに限れば、利便性は低下の方向に向かっている。他方で、東北新幹線を介して、東北・関東と道南の結びつきが強まっていけば、「道南の東北化」が予想もしない局面や形で、じわじわと進んでいくシナリオもあり得るだろう。しかし、その現象は、これまで長い歴史を持つ「青函圏」の頭越しに、一回り大きなスケールで進んでいく公算が大きい。
長い歴史を通じて、青函連絡船や在来線特急が培ってきた「青函圏」の枠組みそのものが揺らぐ「予震」が感じられる中、地元住民の暮らしが置き去りにされていないか、青森市民の1人として気掛かりだ。
以上のような論点について、筆者は3月25日、北海道庁渡島総合振興局が函館市で開いた「北海道新幹線開業1周年記念フォーラム」で提起し、来場者を交えて議論した。本連載でも後日、何らかの形で、その模様を紹介したい。
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