安倍首相は、消費税率引き上げを実行するか ソフトランディングを模索する可能性が大

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安倍首相が7月27日、訪問先のマニラで、来年4月実施予定の消費税率引き上げについて注目すべき言葉を口にした。昨年8月に成立した消費税増税法案には、景気の動向を見て実施を判断するという「景気条項」があるが、安倍首相は「秋に判断」「私が決める」と述べた。増税実施を強く主張する財務省や麻生財務相を牽制するのが狙いと見られる。

財務省や麻生財務相は9月5~6日のロシアでのG20(主要20ヵ国・地域首脳会議)に提出する中期的な財政再建計画の策定に増税は不可欠と唱え、8月に実施の決定を、と主張している。「秋に」は、それを無視して、臨時国会開会前の10月初めに決定するというメッセージだ。「私が」は、決定権者は首相の自分だという明確な意思表示である。

「アベノミクス」で走る首相は、増税による景気失速、経済後退による税収落ち込みを懸念するが、一方で麻生財務相や財務省と対立すれば、「長期政権実現・改憲達成」という安倍プランに黄信号が点る。だが、マニラ発言でついに増税派との戦いを宣言したと見る向きもある。1年前に「3党合意」で連携した自民党の旧谷垣執行部、公明党、野田前首相らの民主党増税派が再結集して、安倍政権と対峙する構図になると予想する人もいる。

いまや「野党に敵なし」の安倍政権は、世論と市場の動向が生命線となる。参院選まで自民党内、公明党、霞が関、財界などと衝突を避ける作戦だったが、八方美人路線を続けると、世論や市場が背を向けるおそれがある。長期政権実現には「財務省との蜜月」よりも世論と市場の支持が重要と考えれば、「増税実施の再検討」に踏み出すかもしれない。

だが、霞が関との対立も影響して失速した第1次内閣時代の挫折を教訓にする安倍首相は、実際には世論や市場と財務省など増税勢力とのバランスを取り、消費税問題でもソフトランディングを模索する可能性が高い。案外、「来年4月の8%への引き上げは容認。以後はフリーハンドで」といったあたりを落とし所に、と考えているのではないか。

(撮影:尾形文繁)

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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