「トランプ・習首脳会談」の成功が難しい理由 大国主義の中国には譲れない条件がある

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ともかく、中国側はあらゆるルートを使って、トランプ氏の側近に中国の決意を伝えていた。ニューヨークタイムズ紙(2月9日付)は、米国の高官がそのことを証言したと報道している。

2国間でこのように特定の条件をつけ、相手方がそれに応じないと首脳会談に応じないとするのは、異例である。国家間の関係では政治、経済、あるいは安全保障など、多岐にわたる案件が同時に存在するのが常であり、その中で1つの問題だけを首脳会談の条件とすることなど、ありえない。そんなことをすると、他の諸問題は最初から顧みられなくなるからだ。

しかし中国は、トランプ氏が一つの中国を認めることを電話会談の条件とし、また、そのためにあらゆる努力を払った。特に重要だったのは、2月3日のマイケル・フリン大統領補佐官と楊氏の電話会談だった、といわれている。このほか、米国側ではティラーソン国務長官、トランプ大統領の長女イバンカ氏および夫のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問などが、中国側では王毅外相、崔天凱駐米大使らが動いたことが判明している。

「一つの中国」を受け入れたトランプ

それでもトランプ氏は、なかなか首を縦に振らず、2月に入っても状況は変わらなかったが、安倍晋三首相の訪米が迫っていた。中国側はトランプ氏と安倍氏の会談を強く意識していたと、前述のニューヨークタイムズ紙は伝えている。誇り高い中国は、トランプ・習電話会談を日米首脳会談と直接関連づけることはしなかっただろうが、何らかの形で日米首脳会談についての中国としての関心を米側に伝えていた可能性がある。

一方、大統領の側近たちには、日本との友好関係は重要だが、あまりに行き過ぎて米中関係を決定的に悪化させてはならない、とする考えがあった。中国の並々ならぬ決意を理解し、大統領の説得に努めた。

結局、トランプ氏は、一つの中国を受け入れることを決断。習氏から祝電をもらってすでに2週間以上も経過していたが、急きょ8日、祝電に対する謝意を表明した大統領書簡を中国側に届け、その翌日にトランプ・習電話会談が実現した。安倍氏がワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着するのとほぼ同じ時刻だったそうだ。

不利な状況にありながらも目標を絞り、可能なあらゆる手段を集中的に使って実現するのは、中国が最も得意とすることである。

たとえば、中国共産党は日中戦争以来、日本や国民党との戦いにおいて装備や兵力数でははるかに劣っていたが、兵士に対して厳しい規律を課して民衆を味方に引き付けるのに成功。腐敗にまみれ民衆から嫌われた国民党軍を圧倒した。

中国建国以降の戦略で、最も顕著な成功例は、よいか悪いかは別として、核兵器の開発であった。初の核実験は第4の核兵器国であるフランスに遅れることわずか4年の1964年である。当時、中国軍の装備は旧式で性能は悪く、また、国民党軍などから取得した武器も混じっていた。そんな中にありながらも、核兵器の開発だけは急ぎ、なけなしの資源を集中的に投入したのだ。実は、中国軍の近代化、装備向上は、現在でも達成されていないことを指導者自身が指摘している。

たとえば、宇宙開発は最近の戦略的行動の代表例であり、月には探査機をすでに軟着陸させ、火星への探査計画も進めている。また経済面でも、中国はエネルギー、金融、運輸、通信など、特定分野の企業を戦略的に優遇して育て上げ、世界の企業ランキングで日米欧の大企業を押しのけて上位にランクさせることに成功した。

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