このような集中的な資源の投入には、共産党政権の統治原則である、「民主集中制」の裏付けがある。これは毛沢東が抗日戦争時代から主張してきたことで、現在の共産党規約第10条は、「中国共産党は民主集中制によって組織された統一体である」として細則を定めている。ただし「民主」についてはいわゆる民主化運動を助長する危険があるので、実際には「集中」だけが重視されている。
しかしながら、戦略的な行動が成功するには、目標が明確であることと実現の可能性があるという条件が、ともに必要である。今回、一つの中国をトランプ氏に認めさせることができたのは、両方の条件がそろっていたからだが、いつもそろっているわけではない。
振り返ると2015年9月、習氏は訪米して、オバマ大統領(当時)と会談した。その際、習氏は米ボーイング社の飛行機を300機購入することを訪問の最初の地で発表するなどして、首脳会談を成功させるためのお膳立てをした。中国のそこまでの行動は戦略的であったといえるだろう。しかし、首脳会談および会談後の記者会見で、習氏は南シナ海の問題について米側の懸念に配慮しなかっただけでなく、各国記者が詰めかけている前で「中国は譲歩しない」と豪語し、オバマ氏のメンツをつぶし不興を買ってしまった。
習氏の南シナ海に関する発言は、予定内のことだったか否か、わからない。もし、習氏が南シナ海における中国の行動を米国に認めさせようと考えていたならば、それは最初から実現不可能なことだった。
南シナ海や台湾問題は妥協できない
それから1カ月後、英国を訪問した習氏は、原子力発電所や高速鉄道の建設など、総額7兆4000億円に上る契約を結んだ。英国が経済不振にあえいでいることを中国は知っていたので、得意の集中的方法で巨大パッケージを提供したのであり、英国政府は喜んだ。しかし、中国の振る舞いには、大国意識が見え隠れしていたのであろう。英国での中国の評価は上がらなかった。後に英女王は中国側に非礼なことがあったと漏らしたことが伝わっている。
4月中にも実現するといわれている訪米において、習氏が投資・雇用の増大計画を提供すればトランプ氏を喜ばせることができるだろうが、それだけで首脳会談全体を成功させるのは困難だ。
その理由は、習氏が「中国が大国である」ことをトランプ氏に認めさせたいのと、「南シナ海問題について中国の主権を損なうことは絶対に認めない」という立場だからだ。前者は習氏のペットアイデアであり、強いこだわりがある。南シナ海問題は台湾問題と並ぶ、国家の原則問題と定義してしまっており、身動きできなくなっている。また、強硬な軍は政府が柔軟な姿勢をとることを許さない、という制約もあるようだ。
仮に習氏が会談を成功させるため、この2つの問題を持ち出さないよう努めても、米側ではそうはいかないだろう。そもそも南シナ海問題はトランプ氏自身も、また側近も重視していることであり、習氏に対して、そのことに触れないで会談を済ますのはまずありえない。習氏がトランプ氏との会談を成功させるのは容易でない状況にあるわけだ。
日本にとって米中首脳会談は、もちろん第三国間のこと。だが中国の戦略的行動は、官民を問わず各国に共通する問題である。習氏がトランプ氏との会談で、どのような戦略で臨むか、世界的に注目されるだろう。
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