では、子どもが自己肯定感と他者信頼感が持てなくなってしまうのは、どういう理由からなのでしょうか? それについて、2つの事例で考えてみたいと思います。
厳格なしつけに苦しむ子どもたち
これは以前、ある学校の事例研究で出た話です。3年生のA君の父親は非常に厳格な人で、食事のときには、ひじを立てるな、音を立てるな、寄せ箸するな、好き嫌いするななど、小言の連続です。
整理整頓にもうるさく、玩具や文房具でも、使った物が出しっぱなしになっていると、ゴミ箱に捨てながら大声でしかりつけます。
時間にも厳しく、起床、食事、登校、宿題、入浴、就寝などの時刻は厳守です。A君が守らなければ大声でしかりつけます。母親は父親に絶対服従という感じで、子どものことを気にかけながらも、父親には逆らえずにいます。
A君は学校でもつねにおどおどしています。いつも先生や友達の顔色をうかがっていて、言われたことはやりますが、自分からやりたくてやるということはありません。暗く無表情な顔で、子どもらしい快活さはありません。よくお腹が痛くなって、保健室のベッドで休むことが多いそうです。
また、1年生のBさんという女の子のケース。体は小柄ですが性格は攻撃的です。ほかの子とのケンカはしょっちゅうで、弱い子はいじめます。気に入らないことがあるとつばを吐きかけますし、いきなりたたくこともあります。仲のよい友達はいません。
幼稚園の時の担任の先生は、Bさんのことで悩んで休職してしまったそうです。小学校ではベテランの先生が受け持っていますが、かなり苦労しています。Bさんの両親は、あいさつ、お手伝い、片づけ、脱いだ服を畳む、などのしつけについて厳しく、言って聞かないときは父親がたたきます。
Bさんは、家庭では両親が怖いので行儀よくしています。その反動が外で出ているのですが、両親はそれがわかりません。担任が両親に話したら、母親は「家ではきちんとしている。もし学校でできないなら学校の責任だ」と答えました。
実際に学校での様子を見にきてもらったこともあるのですが、母親が来たとわかった瞬間にBさんは豹変し、とてもよい子として振る舞ったそうです。
A君もBさんも、本当にかわいそうでたまりません。どちらの親もしつけ主義に凝り固まって、親としての愛情の注ぎ方を誤っていると言うほかありません。
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