「男として順調な人生」ゆえの息苦しさもある 「ロスジェネ世代」が力を抜いて生きる方法

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使う側の言い分として、「非正規雇用はフレキシブルな働き方を求めている人たちが必要としている」という主張があります。確かに、自由は確保されるかもしれませんが、継続的な雇用が保障されていないのですから、そこには安心が欠けています。いくら自由を強調されても、問題があるのは明らかです。

「順調な人生」だからこその息苦しさ

それでは、安心があれば、自由を失ってもいいのでしょうか。ここで考えてみる必要があるのは、順調な人生の息苦しさです。有名高校の生徒は、一流大学に進学することが期待されます。高卒で働いたり、専門学校へ進んだりするのは認められにくいでしょう。一流大学を出たからには、大企業に入社することが求められます。知名度の低い企業に就職したり、フリーターになったりすると周囲が悲しみます。

大企業で働いて十分な収入があると、30歳前後にもなればそろそろ結婚というプレッシャーがかかってきます。さらに、結婚すれば子どもをつくるのが「当たり前」という風潮はまだ健在です。このように、側から見てうまくいっていればいっているほど、本人の選択の余地はなくなっていきます。40男さんの人生が「卒業→就職→結婚」と順調に推移してきたからこそ、職場でも家庭でも気が休まらないのです。

社会学者、ジグムント・バウマンの「安心と自由の関係」に対する指摘をふまえると、誰もが共感できる「深刻な問題」と40男さんのような「ぜいたくな悩み」は、どちらも切実であることがわかります。

安心の増進は常に自由の犠牲を求めるし、自由は安心を犠牲にすることによってしか拡張されない。しかし自由のない安心は奴隷制に等しい。一方で、安心のない自由は見捨てられて途方にくれることに等しい。
(ジグムント・バウマン『コミュニティ 安全と自由の戦場』)

 

「自由のない安心は奴隷制に等しい」という表現は、くしくも、「社畜」の端的な説明として読むことができます。先行きが不透明な現代社会で、安心にばかり目を奪われ、自由の価値を見失ってしまっているのではないでしょうか。自由のない安心を「ぜいたくな悩み」と切り捨ててしまう程度には、私たちの目は曇っています。

さて、以上をふまえると、40男さんが肩の力を抜いて生きるには自由が必要です。そのためには、安心を犠牲にする必要があります。「安心のない自由は見捨てられて途方にくれることに等しい」のですから、もちろん、離婚や退職を勧めているわけではありません。帰宅時のちょっとした寄り道や有給休暇の取得など、いままでの生活パターンを少し変えてみてはいかがですか。

妻に怒られる、会社に迷惑がかかるなどと心配でしょうが、安心を差し出すことなしに自由を得ることはできないのです。人のことを考える前に、まずは自分で自分をもっと大切にしてあげてください。多少はわがままでも心に余裕のある40男さんのほうが、家族にとっても会社にとってもありがたいかもしれませんし。

読者の皆様から田中先生へのお悩みを募集します。「男であることがしんどい!」「”男は○○であるべき”と言われているけれど、どうして?」などなど、“男であること”にまつわるお悩み・疑問がある方はこちらまでどうぞ。相談者の性別は問いません。
田中 俊之 大妻女子大学人間関係学部准教授

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たなか としゆき / Toshiyuki Tanaka

1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教、大正大学心理社会学部准教授を経て、2022年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。

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