「雇用の流動化で生産性が上がる」は間違いだ

なぜ転職すると賃金が下がるのか

雇用の流動化の観点からより興味深いのは、どの業種に人が流れているかである。業種ごとに過去1年間に離職した人の前職を転出、現職を転入として、その差(転入-転出)を2010年から2016年の平均値で見ると、プラスは「医療、福祉」や「農業、林業」「学術研究、専門・技術サービス業」など。マイナスは「宿泊業、飲食サービス業」を筆頭に、「製造業」「卸売業、小売業」などが並んでいる。

もちろん、宿泊業から医療、福祉分野へ直線的に人々が流れているわけではないが、全般的に見て、人々は宿泊業や製造業から離れ、医療、福祉分野や農業などに流れ込んでいる。

しかし、医療、福祉分野は成長産業だが、生産性は低いとされている。逆に、生産性の高い業種の代表格は製造業だ。皮肉なことに、生産性の高い業種ではなく、成長力のある業種へ人が引き寄せられていることがわかる。

溝端氏は「雇用流動性は、業種間の年収(労働生産性)の相違というよりも、むしろ相対的な労働需要の多寡に応じて高まりやすいことがわかる」と指摘している。つまり、医療や福祉は賃金が相対的に低く、転職後の賃金減少が予想されるのに、慢性的な人手不足で労働需要が非常に強いので、流動化した労働者を引き付ける結果となっている。

政府の想定は生産性の高い業種に雇用が移ること

そもそも雇用の流動化はなぜ必要なのだろうか。

雇用流動化論が想定しているのは、生産性の低い産業や企業から、生産性の高い産業や企業に人々が移れば、経済全体の成長率も高まるというメカニズムである。

実際、政府の働き方改革実現会議に塩崎恭久・厚生労働相が提出した資料(2016年11月16日付)には、「労働移動が盛んな国ほど生産性が高い」と書かれている。そして、「成長企業が成熟企業の離職者を雇い入れた場合、助成金を割増」する形で見直すことが提案されている。

しかし、九州大学の今井亮一准教授は2013年に出した論文の中で、「労働生産性の高い産業に雇用が移動するなどという都合よいメカニズムは存在せず、それをあえて促進しようという政策論は持続可能性の点で疑問符が付く」と指摘している。

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