「雇用の流動化で生産性が上がる」は間違いだ なぜ転職すると賃金が下がるのか

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前述のとおり、実際の労働移動では今井准教授の指摘を裏付けるように、成長しているが生産性の高くない業種に労働者が引き付けられている。「根本的な誤解は『イノベーションが起こる産業で雇用吸収力が上がる』と思っていることだ。事実は反対で、イノベーションが起こると労働は要らなくなり、雇用は縮小する。放出された労働力はイノベーションが遅くより労働集約的な産業に吸収されるが、その分、成長率は下がる」(今井准教授による同論文)という。

また、雇用の流動性が高いというイメージのある米国も、近年は転職率が低下しているという指摘がある。技術の進歩が急速だと、労働者が持つ技能の陳腐化が激しくなる。そのために、転職後に賃金が下がるリスクを恐れて、現職で示される賃金の引き下げを甘受し、同時に雇用流動化も進まない「悪循環」が起きている。

漫然と流動化策を設けているが…

政府の政策としても、雇用を流動化すれば何が起こるのか、根本的な部分を深く問うことなく、漫然と流動化が打ち出されてきたように見える。

たとえば、従業員をリストラした企業に給付する助成金として、「労働移動支援助成金」というものがある。2001年度からスタートし、安倍政権時代の2014年度に301億円(13年度は5.7億円)へ大幅拡充された。

その後、「リストラビジネスを助長する助成金だ」という野党の批判もあって2017年度当初予算では97億円まで縮小されたが、肝心の利用率はそれほど高くない。2014年度は予算額301億円に対し決算額は5.9億円、2015年度は同349億円に対し23.2億円に過ぎない。10%に満たない予算の消化率は、制度が利用しにくい、そもそもニーズにマッチしていない、など根本的な問題が伏在していることを推察させる。

最近では2017年度予算案で労働移動支援助成金の一部を改め、中高年層向けの「中途採用拡大コース」を新たに盛り込んだ。既存の支援助成金がリストラ企業を想定しているのに対し、新コースは成長している企業の社員を想定し、5.8億円の予算を計上している。「企業内の人員をスピンアウトさせ、企業の生産性を向上させるのが狙い」(厚生労働省)というが、はたしてどうなるか。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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