北朝鮮スパイと「陸軍中野学校」を結ぶ点と線 日本は貴重な歴史の教訓に目を向けるべきだ

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また、前述の元公安幹部の菅沼氏は、北朝鮮の工作機関が陸軍中野学校を手本にして設置されたとの見方について、「それはうそだ」と指摘する。

その理由の1つとして、故金日成氏の戦友で、著名な抗日パルチザン出身の政治家の故金策氏こそが、中野学校が輩出した残置諜者だとの説があったが、それはおとぎ話にすぎなかったと菅沼氏は指摘した。

確かに陸軍中野学校の教えの中には、「死ぬな、殺すな」「謀略は誠なり」(真心から発する誠がなければ大事を成すことはできないとの意)という精神があったとされ、現在の北朝鮮の工作機関とはまったく似ても似つかない部分がある。

佐藤氏も「陸軍中野学校の場合、『謀略は誠なり』なので、相手国の無辜(むこ)の国民を拉致するような工作はしません。それでは相手国の国民の心を日本がつかむことはできません」と指摘する。

貴重な歴史の教訓に目を向けるべきだ

跡地には「陸軍中野学校趾」の石碑が

しかし、佐藤氏も自書で説くように、北朝鮮のスパイ組織が、戦前の大日本帝国陸軍の軍学校、陸軍中野学校の手法を少しでも学んでいたのであれば、今後も北朝鮮の工作や謀略に対抗していくためにも、日本は過去に自らが行っていたインテリジェンス活動を分析研究し、知る必要がある。これは国民の理解を得て、日本がカウンターインテリジェンス(防諜)を推し進めるうえでも重要なことだ。

JR中野駅近くにある東京警察病院の敷地の片隅には、今も人知れずひっそりと植木に埋もれた「陸軍中野学校趾」の石碑が建てられている。まさに陸軍中野学校がいまだに歴史から消え去られ、歴史に埋もれているようだった。残念ながら日本が貴重な歴史の教訓に目を向け、十分に学んでいるとは思えない。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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