北朝鮮スパイと「陸軍中野学校」を結ぶ点と線 日本は貴重な歴史の教訓に目を向けるべきだ

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陸軍中野学校は1960年代後半には、大映の全5作の映画シリーズにもなった。歌舞伎役者の市川雷蔵が主演し、映画『八つ墓村』で有名な小川真由美、松尾嘉代、船越英二(船越英一郎の父)、野際陽子らそうそうたる俳優が出演している。

中野学校出身の若き情報員は東大など一流大学出身者が多く、上海や香港、満州(現中国東北部)などで情報収集に奔走。敵味方が入り交じった諜報合戦のなか、敵国の人間をも利用してスパイ網を築こうとした。陸軍の軍人と違い、陸軍中野学校では全員が背広姿で、長髪だった。一般人を装うためだった。

映画『陸軍中野学校 開戦前夜』では、香港でチャイナドレスを着た女性が、市川雷蔵が主役を務める日本人情報員の背後から小走りで走ってきて、背中に毒針を打って気絶させ、拉致する場面も出てくる。今回のマレーシアの毒殺事件を彷彿とさせる。

中野学校の出身者は、映画の内容の8割は事実だと指摘している。

「藤本、中野ヤー」と叫んだ金正日

故金正日総書記の専属料理人を計13年務めた藤本健二氏は、北朝鮮国内の招待所で金正日氏と射撃の的撃ち競争をしていて、藤本氏が的のど真ん中に的中させると、金正日氏から「藤本、中野ヤー(陸軍中野学校の意)!」とよく言われたことをいくつかの著書に記している。藤本氏は金正恩・朝鮮労働党委員長の幼少時代、遊び相手を務め、現在は平壌で日本料理店を営んでいる。

藤本健二氏によると、金正日氏は無類の映画好きで知られ、特製の専用ホームシアターで世界中の映画を観まくっていた。日本映画もお気に入りで、『男はつらいよ』シリーズをはじめ、『釣りバカ日誌』『座頭市』などの人気シリーズを愛好していた。1985年には日本から映画製作スタッフや俳優を招き、『プルガサリ』という北朝鮮版のゴジラ映画もつくらせた。

元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は2月23日に都内で行われた新党大地主催の勉強会で、「陸軍中野学校で日本が戦時中に研究していた流れを、北朝鮮で独自に発展させて北朝鮮型のインテリジェンス活動をやっている」と述べた。「金正日の料理人の藤本(健二)さんが書いているように、金正日は何かやってうまくいくと、『お前は本当の中野出身者だ』と褒めていた。彼はいつも市川雷蔵主演の陸軍中野学校の映画を見ていた。(今回のマレーシアでの暗殺事件は)映画の中の世界がそのまま現実になってしまった感じだ」。

佐藤氏はまた、元韓国国防省北韓分析官の高永喆(コウ・ヨンチョル)氏との共著「国家情報戦略」の中で、北朝鮮が陸軍中野学校を模倣していたと指摘したうえで、「戦前・戦中の陸軍中野学校出身の人たちのうち少なからずが朝鮮半島に残り、そのなかのかなりの人たちが、戦争が終わっても、しばらくのあいだ北朝鮮に残ったという話を聞いています」「初期の陸軍中野学校の教育方法は、北朝鮮のインテリジェンス工作にすごく似ているように思えます」と述べている。

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