「Twitterなりすまし」との3カ月全面対決 ある日、「誰か」が自分の名前で投稿し始めた

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「こんにちは。私の名前でスパムボットを作っているようですが、削除してもらえないでしょうか」。

そうツイッター上で本人に直接頼んだところ、10分後に返事が来た。「スパムボットではなくインフォモーフ(情報体。肉体を持たない、精神だけの人間のこと)と呼んでほしいですね」。

メイソンは「何もあなたの名前をかたっているわけではない。これはソーシャルメディアのデータを有効利用して、美しいインフォモーフを作る試みなのです」と主張した。悪意はないのだから、何もとがめられる筋合いはない、やめる必要はないと言わんばかりだった。

こうして私は、ロボット化した自分自身と闘うハメになった。

1カ月が過ぎた。その後もスパムボットは、1日に20回という頻度でつぶやき続け、フォロワーは50人まで増えていった。「華やかに遊び回る私」を事実だと誤解する人たちも増え、明らかに実害がでていた。名誉を傷つけられたうえに、ひどく無力感も覚えた。勝手に作り替えられた私の人格に、本人は何もすることができないのだ。

業を煮やした私は、再びロバート・メイソンにツイートをした。「ともかく直接会って話がしたい。また、話をしている様子を動画撮影させてほしい」と申し出たのだ。撮影した動画はYouTubeで公開するつもりだった。メイソンは賛同してくれた。渋々というのではなく、「このインフォモーフの背景にどのような思想があるのかを話したい」とむしろ乗り気なようだった。

「なりすまし」の正体は3人の研究者

対面の日、メイソンは他に2人の仲間を連れて現れた。いずれも研究者として高い評価を得ていて、3人は共同で「インフォモーフ」の研究をしているということだった。中でもメイソンは20代と最も若く、イケメンの青年だった。

3人に直接、著者は自分のスパムボットを削除するよう頼んだものの、何度頼んでも話をはぐらかされてしまう。しまいには、「インターネット上には他にも『ジョン・ロンソン』がいるでしょう? あなたと同じ名前の人は他にも必ずいる。そうじゃないですか?」などと言い始める始末だった。

3人のうちの1人で、ケルン大学で英語とアメリカ文学の講師をしているというダン・オハラはこう言い放った。「あなたは『世界にジョン・ロンソンは1人だけだ、自分だけが本物だ』とおっしゃるのですか」「あなたはジョン・ロンソンというブランドを守りたがっている。そうですよね」。

「ただ自分のふりをして他人がツイートするのが困ると言っているだけだ!」。私はそう叫んだが、それでも暖簾に腕押しのやりとりは続いた。

ダンは言う。「インターネットは現実世界とは違うんですよ」。「自分が絶対に使わないような言葉ばかりがツイートされるのは嫌だ」と言えば、「ではもっとあなたに似たインフォモーフならいいということですか」。私は「スパムボットが自分と似ていないから怒っているのではなくて、そもそも自分になりすましたスパムボットが存在すること自体、許せない」と訴えたのだが、相手はまるで理解してくれない。

私はついに激高した。「こんなのは学術研究なんかじゃない。ただの犯罪行為だ」。

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(光文社新書)。上の画像をクリックすると、アマゾンのサイトにリンクします

この全面対決の様子は、最後まで動画に収めたが、はたしてYouTubeにアップロードすべきか否かは迷った。アップすれば、激高する自分の姿も多くの人の目にさらされることになる。そんな姿を見せたら、大勢の人に嘲笑されてしまうのではないかと思うと恐ろしかったのだ。でも、たとえ嘲笑されることになってもいい。そう覚悟を決めて、動画の公開に踏み切った。

すると、意外なことに返ってきた反応は好意的なものばかりだった。

「卑劣ですね。ひどい輩です。他人の人生を弄んで、他人が傷つき、怒るのを見て笑っているなんて」「憎むべき連中です。何が学者ですか。一度痛い目に遭うといいんですよ」といった具合に、私に味方するコメントが多数寄せられたのだ。

結局、大勢がメイソンをはじめとする研究者チームを攻撃、非難した。非難の声に押され、結局、動画をアップしてから数日後の2014年4月2日に彼らはスパムボットのアカウントを凍結した。こうして私は、研究者チームとの闘いに勝利したのだった。

(翻訳・構成:夏目 大)

ジョン・ロンソン ジャーナリスト/作家

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じょん・ろんそん / Jon Ronson

ロンドン在住。コラムニストとして活躍後、TVのドキュメンタリー番組を多数制作し、高い評価を受ける。ネオナチやKKKなどの過激思想家にインタビューした『彼ら』(未邦訳)で作家デビュー。邦訳された著書に『実録・アメリカ超能力部隊』(村上和久訳、文春文庫)、『サイコパスを探せ!』(古川奈々子訳、朝日出版社)がある。

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