不倫夫と別れた専業主婦が直面する「貧困」 子どもは小さい、手に職はない

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上の子は好きだった父親に捨てられた現実を、だんだんと理解した。中学生になって精神的に不安定になる。

「2年前。上の子が中学1年のとき、父親がいなくなったことや、ほかにいろいろ重なって神経性胃炎になり、学校を1週間休んだのがキッカケで、不登校が始まった。学校に行かせたくても、叫ぶし暴れるし、どうにもならなかったです。2学期から行かなくなって、2年生になったら行くって約束したけど、6月くらいにトラブル起こしてまた不登校。だから修学旅行も行ってないし、卒業アルバムにも載ってない」

精神科に行っても、何も好転しなかった。最近1年間、外に一歩も出ないで引きこもる。イライラしっぱなしで家の壁を蹴る、叫び声を上げるなど、状態は悪化の一途となっている。

「暴れても、力は私のほうがまだ強い。ご飯も大して食べないからカラダも小さいし、弱い下の子に当たり散らすだけ。私には歯向かってこない。いや、もう。私は早く自立して出て行ってくれぐらいの気持ち。でも学校すら行けない、外出すらできないのに、自立なんてしようがないですよね。社会に適応できない。普通に自立する妄想すらできない。もう、いろいろあきらめました……。だって、どうにもならないから」

「孫の面倒は一生みる」と言ってくれた義父も…

渡邊真由美さん(仮名、40歳)は「働きたくても仕事はない」と言う(写真:編集部)

別に家庭を作った元旦那は消えてしまった。同じ市内に住む資産家の義父も、離婚のとき「孫の面倒は一生みる」と言ってくれたが、上の子の深刻な状況を目の当たりにして近づかなくなった。渡邊さんは窮地に陥った現状に絶望し、これから生きることを半分あきらめてしまっている。

「惨めです。本当に惨め。元旦那とか義父とか見返してやりたいみたいな気持ちがあったから、引っ越しはしなかった。でも、もうダメ。すべてを忘れて、この街から出ようかなって」

朝、下の子を小学校に送り出し、昼近くになると引きこもる上の子がイライラして床をたたく。ドン、ドン、ドドドンという音が天井から聞こえてくると、渡邊さんはうんざりして外に出る。高級車でスーパーへ行き、買い物をして、娘が起き出す14時頃に自宅に戻る。

帰路はいつも足が重い。農地を越えてヨーロピアンな街並みが見えてくると、いつも気分が沈む。玄関を開けて、穴だらけの家に一歩入る。そして、深いため息をつく。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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