今の日本男子は完全に「父性」を失っている

ゲームオタクの主人公は現代人の象徴

──捨て身の旅がない、というのは何を意味するのですか?

藤原 新也(ふじわら しんや)/1944年生まれ。東京芸術大学油絵学科中退。インドを振り出しにアジアを旅し写真とエッセーによる『印度放浪』『全東洋街道』などを著す。『逍遙游記』で木村伊兵衛写真賞受賞。『東京漂流』『メメント・モリ』『乳の海』『アメリカ』『渋谷』『コスモスの影にはいつも誰かが隠れている』など著書多数(撮影:梅谷秀司)

今の若い人の旅ってのは情報を追体験する旅だよね。事前にネットで情報をためて、この角を曲がればあの店があるとすでに知っている。追体験の旅ってのは自分を壊さないんだよ。自分のそれまでの生き方とか、異質なものにぶつかって壊していくのも旅なんだよね。今の若者の旅は情報でガードした憶病な壊さない旅。だから何かに出合う感動や動揺がない。壊れると、何かほかのものを入れて補完せざるをえない。そこで成長が生まれる。受験で失敗するか成功するかしかないような生き方だから、失敗を恐れる傾向がものすごく強い。大人になってからも失敗は避けて生きたい、っていう。

──最果ての島、強くなりたいと願う太古、彼を迎える強烈な個性の老人たち。この構図はどこから?

実際に10年前に現地を旅してモデルとなる人物に出会った。うだつの上がらない老人ガイドで、こりゃ大丈夫かなと思うような人。最後に彼の家へ招かれたら、若い頃にデカい大鮃を釣り上げた写真が飾ってあった。よぼよぼ老人とのギャップに、オッと思ってね。それが種になっている。島はだだっ広くて風が吹き荒れていて、人と平原と羊と、あとは何もない。すると言葉が生まれやすいというか、真っ白いキャンバスに言葉を書きたくなる。そのときの記憶が僕の中でずっと沈潜していて、あるときふっと浮かんできた。沈潜している中で自然と発酵し、浮かんできたときには酒が熟成していた。

バーチャルの世界からリアルの世界へ

──そこに最近の若者を見て感じていたことがはまった、と?

まず父性喪失があって、旅をして現実にどんどん触れながらバーチャルの世界からリアルの世界に向かっていく。リアルなものに触れながら自分を形成していく。それには風土の強さ、ぶつかっていく人の強さ、特に老人たちはそれぞれ異なった父性を持っている。色合いの異なる父性と次々出会っていき、太古は自分を律する力を獲得していく。自分を律すれば自分の足で歩ける。老人の船で巨大な大鮃と格闘し、それまではただ連れ回されていた太古が、最後に自ら針路を老人に指し示す。これは彼の中で起こったたいへんな変革。父性を獲得する最初のステップだった。

巨大な大鮃というのは独特の存在感がある。土のごとく海底にへばりついて、長い格闘の後ふっと水面に浮上した姿はまるで島だった。だから大鮃は大地の暗喩なんだ。自然であり神であり大地であり。その暗喩として、格闘するのは巨大マグロのような魚じゃなく、地底そのもののような大鮃である必要があった。

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