このトランプ大統領の正義感に裏打ちされた思いというものを理解しておくべきだろう。アメリカでは麻薬犯罪は日本とは比べものにならないほど深刻な問題だ。その事実認識をしっかり押さえておくことは、これからのアメリカとメキシコとの関係を見守るうえでも、メキシコに進出している日本企業の利害にとっても極めて重要なことだ。
メキシコ進出を計画していたトヨタは、トランプ大統領就任が決まった時、メキシコ計画を進める一方でアメリカのインディアナ州への工場進出など雇用創出策を発表した。インディアナ州はマイク・ペンス副大統領のおひざ元であり、ペンス氏にとっては大事な選挙地盤だが、4年後を目指すトランプ大統領にとっては、すでにトランプ=ペンス陣営の地盤が確立しており、新しさという点では、おいしい話ではない。
トランプ大統領はビジネスマンとしてのキャリアを積んできたことから、“ディール”(取引)というものを重視する。それも“アート・オブ・ディール”(取引の芸術)を尊ぶという。アート(芸術)とは、日本では感覚的なものを表現する言葉だが、アメリカでの定義は「細部にわたる」とか「微細にわたる」ことを意味する。
たとえば、フォードはメキシコ進出計画を米本土での工場建設に変更した。記者団の「個別企業へのプレッシャーは違法ではないか」という質問に対して、フォードのCEOは「トランプ大統領が初めてではない。合法である」と答え、メキシコ進出計画変更をトランプ大統領への信任投票であることを明確にした。この「細部にわたる」フォードの広報戦略がトランプ大統領に評価されたことは間違いない。それに比べてトヨタのインディアナ州への工場進出計画は「微細にわたる」という点で不十分だった。
トヨタに対する「温かい友好の印」?
その不足を補ったのは、2月10日に行われた安倍晋三首相とトランプ大統領との直接会談だった。安倍・トランプ首脳会談の直前にトヨタの豊田章男社長が安倍首相を訪問したことは周知のとおり。そこで、いろいろ話し合われたのであろう。その結果、アメリカの雇用創出にも日本の自動車産業全体にもプラスになるような政策パッケージが取りまとめられた。
安倍・トランプ首脳会談で明らかにされたのは、トランプ大統領が公約として掲げるインフラ投資への参画も含めて70万人に及ぶ雇用を創出するという政策パッケージだった。それはインフラ投資を含めてアメリカの自動車市場の規模の利益に貢献する。その効果はアメリカの主要な州だけでなく忘れられたような小さな州にも波及する。4年後をめざすトランプ大統領にとっては、「細部にわたる」政策パッケージということになる。
トランプ大統領がそれを評価した証拠がある。これからの日米通商経済対話について、その日本側の麻生太郎副総理・財務相との米国側の交渉パートナー役をペンス副大統領に任せることにしたことだ。トランプ大統領は口には出さないが、麻生・ペンス両セカンドトップに交渉担当を任せることで、トヨタが長年親しいペンス氏を立てる形になったことは、トヨタに対するトランプ大統領からの「温かい友好の印」なのではないか。
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