サムスンは「トップ逮捕」でどこへ向かうのか 今後の経営は?想定される3つのシナリオ

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まず李副会長がこれまで推進してきた「ニューサムスン」戦略の先行きが不透明になった。すでにサムスンは国政不正介入事件が勃発した昨年末から、今年の経営計画立案や役員人事に着手してきた。李副会長が逮捕され、これらの業務が長期的に漂流する可能性も高まっている。株主重視の経営を要求してきた外国投資家などが、サムスンの支配構造の改編に介入する可能性も高まってきた。

当事者であるサムスンの社員らの衝撃も大きい。サムスンは李在鎔副会長が逮捕された2時間後に「今後の裁判で真実が明らかになるように全力を尽くす」との公式的立場を発表した。冷静さを失わず、李副会長の無罪を離礁して経営の空白を最小限にするという意味だ。

「メンタル崩壊」、社員にも動揺

しかし、オーナー逮捕という初めての事態に、あるサムスン社員は「メンタル崩壊」という言葉まで使って当惑を隠しきれずにいる。サムスンのある関係者は「李副会長が逮捕されるとは想像もできなかった。仕事が手に着かない」と打ち明ける。サムスングループ会社のある役員は、「社員たちが動揺せず、自分の仕事に専念するように指示をしたものの、気を遣わないということも異常なこと。当分は勤労意欲が落ちざるを得ないようだ」とあきらめ顔だ。

逮捕直後、未来戦略室のチェ・ジソン室長(副会長)がソウル拘置所に収監された李副会長と面会しようとしたが、今回は認められなかった。ただ、同行した未来戦略室人事チームの常務のみが面会を許された。サムスンは「逮捕されないことが最善だったが、逮捕された以上、残された道は無罪を証明すること」と述べ、裁判に全力を傾ける予定だ。

逮捕前の審理ではサムスン側は苦杯をなめたが、本番である裁判では勝利を得ると意欲を見せる。サムスンは、それまで疑惑を持たれていたサムスン物産の合併問題とグループ内の循環出資解消、サムスンバイオロジクス社上場における不正疑惑、中間金融持株会社法に関するロビー疑惑などについて、「まったく事実ではない」との立場を維持している。

今後、韓国社会における反サムスン感情も重くのしかかる。今年1月19日、李副会長に対する最初の逮捕状請求が棄却された際、「裁判所が財閥側に立った」との反サムスン世論が沸騰、これはまだ沈静化していない。サムスン側が憂鬱に感じるのもこの点だ。李副会長が逮捕されたことに対し世論は同情的とはいえず、依然としてサムスンに厳しい視線を向けている。

サムスン関係者は「刷新案を出すとは言ったこともないのに、すでに韓国社会では既定事実化している」とこぼす。財界のある関係者も「特別検察がいくらサムスンを優遇していないと主張したところで、2008年当時の状況とは世論がまったく違う」と指摘する。つまり、強烈な反サムスン感情を沈静化させることこそが、経営陣にとっての重要な宿題といえるだろう。
 

ホン・ヒギョン 「ソウル新聞」記者
キム・ヒョンジュ 「ソウル新聞」記者
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