「町内会バス」の美談にあえて入れるツッコミ 「努力」の範囲だけで問題をとらえていいのか

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堀内市議は行政責任による生活交通の確保を求め、こうした地域が支援対象になりにくい福岡市の条例改正を市議会で求めましたが、市側は拒否しました(2016年10月5日)。

やむにやまれず「自発的」にやっている送迎の仕事ですが、つねに危険と隣り合わせ。この役員の方は、妻からさんざん心配され、「もうやめてはどうか」と忠告を受けています。形式だけ見れば、「住民主体による地域課題の解決」なのですが、内実は深刻です。

「町内会」が走らせるバス

同じ福岡県の小郡市では、「自治会(町内会)バス」を出している地域があって話題になっています。同市の住宅団地街で、地元の西鉄バス路線の撤退を受けて、住民らは市によるコミュニティバスを最初は要求するものの実現しませんでした。

代わりにつくられたのが、“自治会”(のぞみが丘小学校区協働のまちづくり協議会)が運営主体となるバス「ベレッサ号」。住宅団地、駅、商業施設を結びます。

運賃を無料とし、運転手をボランティアとすることで、「自家用車」を運転するという体裁にしました。

えっ、ボランティア! というのが、まず驚きというか不安になるところです。

「ベレッサ号の運転手は現在40〜70代の17人で、年に1回は元バス運転手が同乗して運転を指導。運転中に危険を感じた『ヒヤリハット事例』を共有して解決策を話し合う機会も毎月設けている」(西日本新聞夕刊2016年12月22日付)

「基本的に高齢者のご利用が多いことや運行スケジュールがゆったりしていることもあり、時速40キロメートルくらいの安全運転を心掛けています。そのおかげか(2016年)3月末で運行開始から5年になりますが、現在まで無事故・無違反での運行をしています」(ベレッサ号のボランティア運転手・平島正治さん)

「今でも無事故・無違反ですか」と尋ねたところ、「車をこする自損事故は1つだけありましたが、それ以外は無事故・無違反のままです」という回答が同協議会事務局から、市の担当者を通じてありました。

これは、すごいことです。

行政はガソリン代などを支援し、企業は車両を寄贈。住民主体で生活の「足」を確保――厚生労働省の「地域力強化検討会」がうたう、模範的な「地域課題の解決」に見えます。

実に美しい話、まさに「美談」です。

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