「町内会バス」の美談にあえて入れるツッコミ 「努力」の範囲だけで問題をとらえていいのか
しかし、他方で、これほどまでに条件がそろい、しかも安全についてかなりの注意を払ってようやく成立しているようにも見えます。町内会(自治会)の努力は並大抵のものではありません。
はたして、これほど「すごい」努力を、どの地域も同じようにできるものでしょうか。実際、このバスを走らせているのぞみが丘小学校区の高齢化率は6.5%しかなく、小郡市全体の高齢化率が22%にもなるなかで、「特別に若い新興住宅団地」であることも人材を確保する大事な条件だったといえます。
小郡市のような経験を組み立てられる町内会は、ごく特別な条件がそろった地域だけで、多くの地域では今回の冒頭に紹介した福岡市南区のような、ギリギリの仕事ではないでしょうか。
大もとの「規制緩和」を見直さなくていいのか
さらに、問題の大もとにメスが入れられていないことへの疑問が残ります。
先ほど書いたとおり、「ベレッサ号」ができる、ことの起こりは、地元の公共交通事業者である西日本鉄道(西鉄)がバス路線を廃止したことでした。
小郡市コミュニティバス運営協議会は2011年に出した「小郡市コミュニティバスに関する意見書」で「規制緩和による路線バスの撤退」「小郡市内にはもともと7つの民間バス路線があったが、……平成21年9月を最後に、小郡市内ではバス停1か所を除いて民間バス路線が全て廃線」と記しています。
福岡県のバス事業では西鉄などが独占に近い状態にあるだけに、単なる「一私企業の判断」とだけ見るわけにはいきません。路線の存廃や減便は、そのまま公共交通の縮小として現れます。
政府の規制緩和路線が民間バス事業の撤退を生んでいるという、問題の土台が壊れたままになって、町内会の「努力」の範囲だけで問題を見ていていいのでしょうか。
もちろん、執念でバスを走らせた人たちの努力はすばらしいものですが、こうした問題の根本的な解決とは、規制緩和路線の見直し、交通事業者の社会的責任の実行だという大もとに対する視点を失ってはなりません。
そうでなければ、行政のリストラ、企業の社会的責任の放棄などのツケ回しを、「地域力強化」という美名で町内会がかぶり、町内会の仕事だけがどんどん膨らんでいくという悪循環は断ち切れないからです。
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