山野代表は次のように説明します。
「ゼミの学生の多くは、家業が斜陽産業だと思い込んでいたり、親が敷いたレールに乗るのが後ろめたかったり。彼らのモヤモヤはけっこう根深いのです。でも、「起業家もかっこいいけど後継社長もかっこいい」という文化が、彼らのモヤモヤを取っ払うキッカケに必ずなる。ベンチャー型事業承継という言葉で、事業承継という言葉がもつ受け身のイメージが、一気に能動的になります。「継ぐ側」の若い世代が主体の頼もしい言葉に。家業を継ぐかどうか迷っている学生はもちろん、先代や古参の社員との軋轢で葛藤している若手後継者もこの言葉できっと奮起できると思います」
関東でもチャレンジが進行中
実は、関東においても、事業を引き継いだ2代目、3代目が新しい挑戦に取り組む事例が出ています。
代表格は大田区の「下町ボブスレー」。冬季オリンピック競技で氷上のF1と呼ばれるボブスレーのマシンを、町工場が協力して製作し、オリンピックでの入賞を目指す「下町ボブスレーネットワークプロジェクト」のメンバーは、2代目、3代目の経営者がほとんど。フェラーリやBMWなどが手掛ける他国のそりとの対決を通して、結束を作り、チャレンジする思いを共有しています。この試みを通じ、金属加工の家業を単に引き継ぐだけでなく、航空機、医療福祉、ロボットなど新しい市場開拓を実現する企業が出てくることが期待されています。
プロジェクト推進委員会の委員長で、自らも2代目経営者であるフルハートジャパンの國廣愛彦社長は語ります。
「プロジェクトに参加する2代目・3代目経営者は、これまで特化することで磨いてきた加工技術を世の中にアピールすることや、1社では達成が困難な完成品製作などを、この連携により実現しています。一人ひとりが、自分の経営手法や、技術を出し惜しみすることなくシェアすることで、実現不可能とも思える課題を達成し続ける。新しい試みや体験が参加企業を相互に強くしています」
また、墨田区では、浜野製作所が、持ち前の設計・開発、金属加工の技術をベースに、町工場の力を合わせ深海探査艇「江戸っ子1号」を開発したり、ベンチャーとの連携施設「Garage Sumida」を開設したりして、新しいものづくりを追求しています。このような力強い動きが近年、各地で出てきているのです。
長期にわたり事業を続けている中小企業や中堅企業は全国にたくさんあり、事業承継のタイミングも今後ますます増えます。独自の技術、職人の力、取引先のネットワーク、地域で培った信用力といった経営資源は計り知れないもの。その一方でビジネス環境は大きく変化しており、単純な承継ではジリ貧になるケースも多々あります。事業承継の機会を前向きにとらえ、新しいことに一歩踏み出すかどうか、後継経営者の選択が迫られていると思います。
「ベンチャー型事業承継」という言葉はそのようなことを改めて考えさせられる言葉。関西発のこの運動が拡大し、各地での活動も盛り上がることで、新たなる繁栄を獲得する企業が増えることを期待していますし、応援したいと考えています。
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