横田社長は次のように語ります。「新しいことを提案しても、『たまたま今、景気が悪いだけだから』と従業員は納得しませんでした。新しいことは反対。過去の成功体験につながれている状況。結局、アパレルの仕事は自分独りで始め、苦労しながら広げました。やがて、手伝ってくれる社員があらわれ始め、そのときにやっと自分の会社になった気がしました。今の事業拡大は、最初の1人として手伝ってくださった従業員さんのおかげと思っています」。
山田社長も同様の苦労があったと言います。「大企業から転職で会社に入って5年間はトラックの運転。赤字が積み上がり続け、何をやっているんだろうと途中で辞めたくなることもありました。でも、事業を継続してほしいとの先代の思いを受け、独り手探りでeコマースを始めました。最初は卸でなくバラ売りをするのでは、利益が出るはずがない、と言われましたが、やがて業界の常識は非常識だということがわかってきました」。
2人は、このような苦労をしつつも、原材料となるダウン(羽毛)、商品の工具についての「目利き」や仕入れルートなど、先代からの経営資源を生かして事業を成長させています。保守的な業界構造の中で新しい取り組みをするためには、時間をかけて培ったつながりや経験の力が必要なのです。
渋谷社長は、ベンチャー型事業承継の関西エリアでのインパクトは大きいと言います。
「関西は自営業者やオーナー企業が多い地域。事業を承継する人はこれからますます増えます。既存の事業を伸ばすか、新しいことにチャレンジするか、バランスを考えて判断するべきですが、事業を引き継いで、ジリ貧を放置するのであれば、思い切ってベンチャー化すべき。そんな企業が増えれば関西は大きく変わると思います」
パネルは、「事業を引き継ぐということは、従業員の人生を預かるということ。いやいや継いで経営者になることは許されない。覚悟を持ち、前向きに取り組むことが大事。後継者候補は、若いうちに家業と向き合うべき」、との共通認識で締めくくられました。
近畿経済産業局では、このようなベンチャー型事業承継をセミナーや交流会などを通じで支援するとのことです。
「ベンチャー型事業承継」の大学講座
ベンチャー型事業承継の提唱者である千年治商店の山野千枝代表は、家業を継ぐかどうか悩む若者のために、「ガチンコ後継者ゼミ」という大学講座を開講しています。関西学院大学と関西大学で半期2単位の講座。実際にベンチャー型事業承継で事業を伸ばしている経営者も登壇する実践的なゼミとなっています。
・親と同じことをするのが事業承継ではない。
・負の資源もあるけど、すでに経営資源があるなんてものすごいアドバンテージ。
・でも、経営者になるって相当な覚悟が必要。
・ファミリービジネスならではのゴタゴタは起こるもんです。衝突上等。
・最後の決断は自分ですること。言い訳のない人生を。
といった基本的な心構えや実践スキルを学ぶとのこと。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら