鳥貴族だけが激安・均一戦争に大勝した意味 大手居酒屋優位の構造はこうして変わった

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そんななかで赤字にもならず強さを見せたのが、鳥貴族だった。全品280円均一をいっさい崩さずに、業績は安定成長を見せた。社長の大倉忠司は三光MFが仕掛けた「全品270円均一」の激安・均一価格戦争に終始慌てなかった。大倉はおおよそ次のように答えた。

「当社の『全品280円均一』の商品は低価格・高価値であり、低価格・低品質の均一料金業態とは一線を画します。低価格・低価値の均一業態と一緒に見られるのは困りますが、低価格・均一戦争が広まることで、当社が注目されるのは追い風です」

低価格・高価値の焼鳥専門店チェーン

大倉は早い時期から「全品270円均一」業態の限界に気づいていたようだ。要するに鳥貴族は激安・均一価格戦争とは一線を画す、低価格・高価値の焼鳥専門店チェーンとして高く評価されたのだ。鳥貴族は大勝し、関東圏でも「全品280円均一」のブランドを確立した。

三光MFの平林が仕掛けた激安・均一価格戦争が空前絶後の広がりを見せたのは2010年の1年間だけだった。ちなみに2010年に倒産した居酒屋は前年比4.1%増の201件を記録、過去最多を更新した。

その後、三光MFの「270円均一金の蔵Jr.」は低価格居酒屋として運営している。そして新しい居酒屋業態として大衆酒場「アカマル屋」を10店舗近く展開している。みそ煮込み、関東煮、炭火串焼きなどが人気メニューで、2016年10月には大阪にも出店した。結果的に一敗地にまみれたが、大手居酒屋チェーン優位の市場構造を変えた平林の功績はもっと評価されても良いだろう。

この激安・均一価格戦争直後の2011年3月、東日本大震災が発生、宴会予約のキャンセルと宴会自粛が続き、大箱の総合型居酒屋を展開する大手居酒屋チェーンは多くが苦境に陥った。その結果、主力業態が経営不振に陥り、業態転換や大量の閉店に追い込まれることになった。特に大都市部では総合型居酒屋チェーンの時代は終わったといわれるようになり、代わって鳥貴族を代表とする専門店チェーンの時代がやって来るのである。

(敬称略、第4回に続く)

中村 芳平 外食ジャーナリスト

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なかむら よしへい / Yoshihei Nakamura

1947年、群馬県生まれ。実家は「地酒の宿 中村屋」。早稲田大学卒。流通業界、編集プロダクション勤務、『週刊サンケイ』の契約記者などを経てフリーに。日刊ゲンダイの「語り部の経営者たち」にレギュラー執筆、ネット媒体「フードスタジアム」に「新・外食ウォーズ」、「ビジネスジャーナル」に「よくわかる外食戦争」などを連載。

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