残念だったのは注文した商品のクオリティが低かったことだ。たとえば焼き鳥。海外からの輸入品で冷凍モノであり、工場で串を刺した肉だけの焼き鳥がレンジで温めただけで出てきた。鳥貴族の国産新鮮鶏肉の「むね・もも貴族焼」(店内串打ちネギ付き1本90グラム=1人前2本)」の「全品280円均一」と比べると商品力が格段に劣った。筆者は「全品270円均一」業態は、そんなに長く続かないだろうと思っていた。
ところが、「全品270円均一」のインパクトはものすごく大きかった。デフレ戦争の代表としてテレビ局が競って取り上げた。平林はあちこちのテレビ番組に引っ張りだこになり、「全品270円均一 金の蔵Jr.」の宣伝に努めた。その結果「全品270円均一」業態は大きなブームになった。
居酒屋業界の構造問題とは
平林には居酒屋業界のパクリ体質や価格戦争を避ける構造的な体質に挑戦する狙いもあった。
2003年に自社が展開する「月の雫」の商標権を侵害していると、モンテローザの「月の宴」に対して訴訟を起こしたことがある。裁判は3年にわたって争われ2006年に和解したが、平林は成功した店があると、そのモデルを徹底的にまねして店舗だけではなくメニューまでパクってしまう居酒屋業界の体質に極めて批判的であった。そういうパクリ体質が居酒屋業界から個性や独創性を奪い、ダメにしたと思っていた。
平林は言う。
「居酒屋チェーンはお客さま第一主義と言いながら、家賃も原材料費も人件費も高い。だから中生ビールは1杯400~500円だというように値段を決めてきました。これまで価格競争がなかったので、そういうやり方がまかりとおってきたのです。
また、大手チェーンのパクリ体質によってどこのチェーンも店舗の外装から内装、メニューまで似たり寄ったり。多店舗化するとスケールメリットが出るどころか、反対にスケールデメリットが出るという、ひどい状態に陥り居酒屋離れが起こったのです。それでも大手居酒屋チェーンがそれなりの業績を残せたのは駅前一等地の好立地を確保し、護送船団方式で客単価3000円以上を守り、価格戦争を避けてきたからです」
平林は「全品270円均一」業態で「居酒屋業界のユニクロになる」といって大手居酒屋チェーンに価格戦争を仕掛けたのである。
手応えを感じた平林は2010年12月までのたった1年4カ月間で、首都圏を中心に関西圏、東海圏などに業態転換と新規出店で120店舗近く展開した。激安・均一価格戦争は、全国の主要都市に燎原の火のごとく広がった。猫も杓子も「300円均一」以下の均一料金で集客を競い、まさに空前絶後といえる居酒屋激安戦争に発展した。
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