筆者は多くの大手居酒屋チェーンを取材した。ほとんどが直接取材に応じず電話取材ですませたが、彼らは自分の首を締める激安・均一価格戦争に極めて否定的で、「全品270円均一」業態に対してはブーイングの嵐だった。大体、激安・均一価格業態を展開するシステムもノウハウもなかったので、メニュー開発などどう対応すればよいのかわからず、現場は混乱していた。
それでも激安・均一価格戦争に参入せざるをえなかったのは、何も手を打たなければ三光MFに客を奪われ、草刈り場になるからだった。三光MFが「全品270円均一」業態で最も輝いたのは2010年6月期の決算だった。売上高は約263億円で最高を更新、営業利益は約26億円を記録した。
「全品270円均一」失敗の理由
しかしながら平林は早い時期から「全品270円均一」業態の失敗に気づいていた。最大の理由は「全品280円均一」の低価格・高品質の鳥貴族と比べると、フードメニューのクオリティが落ち、注文皿数が増えなかったことである。
筆者は当時、平林にも2回インタビューした。平林は反響の大きさと継続運営の難しさを、語った。
「客単価3000円以上だった東方見聞録を全品270円均一に転換した時、客数は3~5割も激増、売上高も2~3割増しになりました。ところが客単価2000円の予想に反して、実際の客単価は1700~1800円程度。これは大きな誤算でした。問題は全品270円均一業態が当社の最盛期の売上高、利益と比べると7~8割にとどまったことです。
当社のように厨房革新や店舗運営のIT化を進め、十分に準備してきても価格破壊の『全品270円均一』業態を継続運営するのは非常に難しい。何の準備もせずにまねして低価格・均一業態を始めた大手居酒屋チェーンはもっと苦しいはずです」。筆者は平林から「勝利宣言」のような威勢の良い話が聞けると思っていたのだが、拍子抜けした覚えがある。
平林は「全品270円均一」業態を続けるために、家賃の値下げ交渉、取引先からの仕入れ価格の値下げ交渉などあらゆる対策をとった。だが、2010年12月の宴会商戦では予約がまったく取れなかった。タッチパネルで注文して宴会というわけにはいかないからだ。平林にとってこれも想定外のことで、この時点で「全品270円均一」業態からの撤退を決断した。
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