逆に危機を招きかねない産油国のドルペッグ制

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ドルペッグ制放棄で期待されるプラスの影響

ポールソン財務長官は、米国は政府系ファンドの投資に対して“開放されている”と強調している。米国が政府系ファンドに対して新たな規制を課す理由はまったく存在しない。むしろ米国は弱体化した金融機関の資本を強化するために、政府系ファンドの投資を必要としている。しかし、政府系ファンドの投資先として米国を開放することに同意したからといって、政府系ファンドブームを引き起こしている貿易不均衡を悪化させる為替政策を推し進める理由はまったくないのである。

ブッシュ政権は、産油国の通貨がドルに対して強くなりすぎると中東での軍事コストが高くなることを懸念しているのかもしれない。だがこの考えは間違っている。ドル安によって米国製品の中東向け輸出を増やし、この地域の生活水準を向上させるなら、すべての関係者が利益を得ることになるからだ。

では産油国の利益はどうなるのだろうか。ドルペッグ制を放棄することで壊滅的な影響が出ると懸念する根拠はあるのだろうか。

中国のドルペッグ制に関していえば、こうした懸念は大げさすぎる。ドルペッグ制は有効であるにしても、為替相場を切り上げることで輸入価格は低下し、人々の生活水準が向上するのである。やがて市場原理に基づいた相場変動は合理的だと人々が確信するようになれば、ドルペッグ制は消滅し、為替相場の動きは今より物価全体に大きな影響を与えるようになるだろう。

もっと差し迫った事柄として、産油国のインフレ高進がある。中東諸国の消費者物価は比較的安定していたが、最近、平均で6%を超えるまでに高まっている。インフレがさらに深刻になれば、中東諸国の指導者が避けたがっている為替相場切り上げと同じ影響がもたらされる。

為替相場切り上げの最も重要なプラス効果は、医療、教育、銀行といった国内型産業の発展を促進し、それによって大幅な開発の遅れを取り戻すことができることだ。

エネルギー価格の高騰で、産油国はかつてないほどの貿易黒字を計上している。確かに石油産出が途絶えたときに備えて、産油国が黒字を貯め込むのは間違っていない。しかし、均衡の取れた経済的、財政的な基盤を確立するためには弾力的な為替相場を採用することが正しい道である。米国にとって、少なくとも貿易収支が正常化するまでは、産油国のドルペッグ制を支持することはまったく意味がない。今はオイルマネーについて詭弁を弄している時ではないのである。

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名をはせる。

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